20歳になったら大人になるんじゃなくて、大人として扱われるようになるだけなんだな、と大学時代、年金納付の紙が届くたびに噛み締めていた。
今となってはすっかり慣れてしまったのだが、20歳になった時、初めての年金の学生納付特例の申請で悪戦苦闘したことが、この気持ちを私に印象付けた。

20歳になり届いた年金加入のお知らせ。納付額を見てひっくり返った

成人式という言葉がある。
人に成るという言葉通り、20歳になればスマホのアップデートみたいに、なんだか素晴らしい大人としての力が自動的に生まれるのだと思っていた。
詐欺にだまされない力だとか、責任を持って物事を判断する力とか、ちゃんとした書類を用意する力とか。そんな、きちんとした社会人としての力が20歳に成ることで芽生えるんだ、と。
はい。そう思っていました。20歳の誕生日を迎えるまでは。

実際に20歳の誕生日を迎えた私を出迎えたのは、19歳の誕生日とほぼ変わらないお祝いと、昨日の19歳と変わらない判断力の自分。そして、日本年金機構から届いた年金加入のお知らせだった。年金納付用の紙もしばらくして届いた。
年金納付額を見て、私はひっくり返った。

年金、大学生でも1ヶ月に1万6610円払わなきゃいけないんですか?!
当時の私のバイト代は1ヶ月に1万円あるかどうかくらい。親からの仕送りも必要最小限だから、2万円近い出費を増やすのは、私には無理だ。
どうしたらいいんだろう。親に払ってもらおうか、と思って父に相談したが、子供の年金を払っても税金は安くならないから払わない、と断られた。

年金の支払いを先送りすることにして、公的書類をポストに入れてた

大人の世知辛さにがっくりしていても年金の請求はなくならないが、いま年金を払うのは無理だ。でも、年金を払わなかったら払わなかった分だけ、将来の年金支給額が下がるらしい。なんだかそれはやだなぁ。
そんなわけで、私は学生の間の年金の支払いを先送りする制度を利用することにした。

確か年金納付用の紙と一緒に同封されていた学生納付特例の申請書を書いて、大学で100円払って発行してもらった在学証明書と一緒に指定された宛先に送った。
公的書類をポストに入れた時、なんだか大人になった気分だった。

そして、送り先から電話がかかってきた。
「在学証明書の有効期限が切れています。申請書を送り返すので、有効な書類を添付してください」
わざわざ取りに行った在学証明書が、年金納付の先送りのためには役に立たなかったらしい。また100円を犠牲にするのは嫌だったから、実家のコピー機で学生証をカラーコピーして、送り返されてきた書類に貼り付けた。

しばらくして、学生納付特例を受け付けたという内容のはがきが届いて、20歳の私と年金納付のドタバタは、一応決着がついた。

20歳になると、大人としての能力と精神が手に入るわけではなかった

大人だったら、きちんと最初から有効な書類である学生証のコピーで、年金の申請をすんなり終わらせられたのかなぁ、と思った。
でもよく考えると、間違えた時のために書類を送り返すシステムがあるということは、大人でもミスをする、ということなのかもしれない。遠くに感じていた大人を、ちょっと身近に感じた。

少なくとも19歳の私が信じていた、20歳になることで、大人としての能力と精神が手に入るというイメージはただの空想だった、ということを年金に関わる申請で私は思い知った。

自分で年金の納付延期を申請するという大人としての行動をしなければいけないのは、初めてのことでしんどかったけど自分の成長が感じられて、ちょっと楽しかった。
これ以降、大学時代に送った年金の学生納付特例は送り返されてこなかったから、自分は少し大人に近づけたのかなぁ、と思っている。