大人になったAくんと会えたら、ただの雑談をしたい。どこかのカフェに入って、カフェオレに入った氷を突きながら、15、6年間話せなかった分を取り戻すかのような話をしたい。

塾の出欠確認で思わず振り返る私。Aくんが息を飲む音が聞こえた

高校生の頃、近所にポツンとある塾に通っていた。大手ではなく近所の人しか知らないような小規模の塾だった。私はそこでAくんと再会を果たした。

この塾の授業は、生徒一人一人の出欠を確認するところから始まる。
「Aくん」
「はい」
私は思わず後ろを振り返った。そこには有名男子校の制服を見にまとい、小学生だった頃の面影を残しつつも男らしい顔つきになったAくんがいた。Aくんは私が振り返ったことに気がついたようだ。
「鈴蘭さん」
「はい」
Aくんが息を飲む音が聞こえた。

Aくんと私は同じ小学校に通っていた。学園形式で幼稚園・小学校は共学、中高が女子校だ。そのため、私は内部進学で同じ学園の中学・高校に通えたけれど、Aくんは小学校を卒業したら出ていかなければならなかった。

話したい、挨拶したいと思っても喉が詰まってしまって声が出ない

女子校は当然、周りに男子がいない。男性の教員なら一応いたし話せたけど、男子と話すのとは勝手が違っていた。
話したい、挨拶したいと思っても、喉が詰まってしまって声が出ないのだ。
もしかしたら、相手も男子校だったから私と同じようなことになっていたのかもしれない。小学生だった頃も特別よく話していたというわけではなかった。お互い名前だけは知っているというだけだった。
さらに、男女仲があまり良くなく、男子は女子に向かって「死ねよ」と暴言を吐き、なんの脈略もなく殴りかかってくるようなところだった。
同じ学園だから登下校の時間がかぶるため、中高のお姉さんの姿は見慣れていた。地味目な制服は記憶に残っているはずだ。それに私は少し珍しい名字のため覚えていてもおかしくない。

しばらくして、私はその小規模の塾ではなく大手に移動した方がいいのではとなり、塾をやめることになった。
最後に一言くらい言ってやりたかった。家に帰ってから彼に再会の挨拶も別れの挨拶もできなかったことにボロボロ泣いた。

男好きと噂されても男子に話しかけたのは、いつかA君と話したいから

結局大学受験はうまくいかず、浪人することになった。浪人中の目標はもちろん受験に合格することだったが、私にはもう一つ目標があった。それは男子と自然に話せるようになることだった。
そのため、男子にできる限り話しかけた。一緒にいるのは1年だけだし、大学に合格したらみんな私のことなんて忘れるだろうと思って、あまり他の人の目を気にしなかった。
鈴蘭さんは男好き、みたいな噂だったけど、Aくんと一言も話せなかった後悔と比べたらたいしたことなかった。

風の噂でAくんは1年浪人して田舎にある大学の医学部に進学したときいた。もし彼にもう一度会えたら、「久しぶりだね。私のこと覚えている?高校の時再会したよね」「なんかかっこよくなったね。社会人になってもお互い頑張ろうね」って話したい。
彼は小学生の頃みたいに急に殴りかかってくるかもしれない。さすがにもう丸くなって殴りかかることはないかな。それでもびっくりした顔はするだろうな。
そんな妄想を今日も繰り広げている。