20歳になっても、自分が「大人」になったと思ったことはない

「大人」って、自分より少し離れた人たちはかっこいい生き方をしていると、憧れを持って追いかけられる距離にいる人のことだと思う。

「あなたは子どもですか？大人ですか？」と聞かれたら、間違いなく子どもと答える。大人と答えるなんておこがましい。
小学校に入りたての頃は6年生が「大人」だった。でも、学年が上がると彼ら彼女らは大人に見えず、中高生が大人に見えていた。高校生になると大学生が、大学生になるとお酒を飲めるようになった人が大人に見えていた。
20歳になり就活を始めた今は、新社会人が大人に見えている。多分、新社会人になったら教育係になった人が大人に見えていることだろう。

自分が大人になったなんて思ったことは一度もない。
いや、20歳の誕生日に居酒屋さんでドキドキしながらカシスオレンジを口に運んだ時は「これで私も大人の仲間入りか〜」なんてうっすら思っていた気もする。
それでもその翌日には「私は子どもです」と即答していた。

自称おじさんのあざとい先生。ああいう「大人」もいいなと思った

高校２年生の時、数学担当のとにかくあざとい、自称おじさんの先生がいた。
色白の肌にくりくりの目、程よく筋肉がついた158cmの体でグレーのスーツのズボンをひきずっていた。彼はあっという間に全女子の中で話題になった。
彼は拗ねると頬を膨らませ、自分がミスした時は舌を少しだけ出し、自分がうさぎ年生まれであることを説明する時に頭の上に手でうさぎの耳を作っていた。休み時間にはその先生に質問したい人で、職員室前に長蛇の列ができていた。
「先生、結婚しているー？」
「してないー」
「彼女いるー？」
「いないー」
「彼氏はー？」
「彼氏？？」
私はこの先生は新卒で入ってきたのかな？ということは20代前半だろうか？しか思っていなかった。結婚していないのは若いからまだしも、彼女がいないのは意外だった
「先生、いくつー？」
「今年30」
「30！?！?」
「うん、だからみんなより一回り年上になるのかな」
戸惑う私たちを前に「俺もう、おじさんだよー」なんて笑っていた。その先生は難関大学出身で、授業はわかりやすくて、面白くて、あざといだけじゃなかった。

「30とかもうおじさんじゃん！おじさんがうさ耳とか気持ち悪い！」っていうクラスメイトもいた。私の目には彼は全くおじさんに映らなかった。年齢を知った後も新卒で入った若い先生に見えていた。
最後の授業まで先生は頬を膨らませ、上目遣いで話していた。私はそんな先生が大好きだった。付き合いたいって気持ちはなかったけど、ああいう「大人」もいいかもって、人生楽しそうだなって憧れていた。

彼自身も自分をおじさんなんて少しも思っていなかったのかも

そんな先生の追っかけをしていた変な女子高校生は、大学生になった。
思い描いていた大学生活とは違うし、中高生の頃に「大人」としてみていた大学生じゃない。勉強ができるわけでもないし、大学生らしいオシャレも、遊びも全然していない。それでもそこそこ楽しく毎日過ごせている。

もしかしたら、彼らもこんな生活をしていて、実際はあまりキラキラしていなかったのかもしれない。
大学進学とともに上京して、今まで会ったことがないような性格や生き様の人にもたくさん会ってきた。それでもあざといおじさんにはまだ会えていない。

あの先生は今頃どうしているかな。まだあざといままなのかな。もしかしたらもう結婚しているかも。私たちより一回り年上だったから、あの人今年で34歳か……。
え?！あの人今年34?！そして私今年22?！二人とももうそんな年齢なんて信じられないけど?！
私はまだまだ子どもですけど?！22なんて大人なお姉さんの年齢じゃん！
大人なお姉さんとして憧れてもらえる人になった実感も、私に憧れてくれる人がいる気配も全くない。

本当は彼も彼自身のことを大人なんて、おじさんなんて、少しも思っていなかったのかも。じゃないとあんなあざといことできないもん。10年ぐらいして30代になって先生のことを思い出した時にどう思うのかな。共感するのかな、それとも憧れの人のままなのかな。

30になっても、私は自分のことを大人だともおばさんだとも少しも思わないと思う。だから、その時先生への憧れも消えているかもしれない。

いつまでも「大人」として憧れを抱かせてくれる人はいないのではないか。それなら、もう自分より上の年齢の人々がいなくなった時に「大人」として憧れる相手はいるのだろうか。その「大人」はもうこの世を旅立った人になってしまうのだろうか。彼らと年齢が近づいた時だけは、その憧れは冷めないだろう。