子供の頃は、一定の年齢や枠組みの中に入れば自動的に『大人』になるものだと思っていた。
小学生の頃の私は生粋の『ちゃお』、『なかよし』っ子だった。お小遣いを握りしめて本屋さんに行って最新号を買うのが毎月の楽しみ。
漫画の中のヒーローやヒロインは大体が15〜17歳で、当時の私にとっては1番身近なロールモデルだった。
彼ら、彼女らは高校デビューと共に運命的な出会いを果たし、甘酸っぱい恋愛を育んでいく。恋人が出来ること、誰かと抱き合ったりキスをすることは小学生の私にとってとても大人っぽいことだった。
中高一貫の女子校で、魅力的な男の子との出会いもなく過ごした
毎月毎月何本もの少女漫画を浴びるように読んでいた私は、当然のように自分も高校生になったら自動的に恋人が出来て、大人の階段を登れるものだと思っていた。
一方で、幼い頃からの刷り込みで女子校に通うことを疑いもしていなかった私は、その既定路線通り中高一貫の女子校で多感な高校時代を過ごすことになる。
もちろん魅力的な男の子との出会いなんてあるはずもなく、当時の私は気の合う友達とテレビゲームや少年漫画の話題で盛り上がることを日常としていた。一部のクラスメイトは女子校に通っていても彼氏をゲットしていたらしいが、どんなルートを使ってそんな存在と知り合っていたのか謎のままである。
高校デビューに失敗した私は、それなら次は大学デビューだと安直に思っていた。高校生の頃、夢中になっていた漫画やゲームの主人公たちは大学生が多く、彼ら彼女らにとって彼氏彼女がいることは当たり前。
物語の中の彼ら彼女らの関心ごとはキスやハグからステップアップして、身体の関係を持つこと。アダルトコンテンツは成人指定といわれるくらいだ。それこそ大人だ、と思っていた。
大学デビューに失敗。浮いた話もないまま学生生活は終了
大学生になったら流石に彼氏が出来て、初体験を済ませ一人前の大人の仲間入りだ!と悠長に構えていた私がいる。しかし、蓋を開けてみれば女の子らしさのカケラもない田舎出身のヲタク女子を異性として見る学生などいる訳もなく、浮いた話の一つもないまま4年間の学生生活は終わった。
大学デビューも失敗した私は、いやでもハタチになったら大人だろう、とまた漠然と思っていた。いざハタチになってみると、私はまだ大学生で親の扶養家族だったし、実家に帰省するお金もなくて成人式も出なかったし、煙草は吸う気になれずお酒も体質的に受け付けなかったので、それまでの19年間とハタチのこれから、何が変わったのかも分からなかった。
社会に出たら大人としての自覚が出るかも!なんて期待してみたが、役者を目指しフリーターになった私には社員という肩書きもなく、学生気分が抜けないままここまで来てしまった。
もう30歳になる。小学生の頃一番身近だった大人、両親の年齢に近くなった。次に身近だった先生の年齢なんて、何人かは追い越してしまっただろう。
少しは大人になっただろうかとこれまでの自分を振り返るが、閉店作業中に同僚と馬鹿騒ぎするテンションは高校生のそれだし、あいも変わらず興味の対象はゲームにアイドル。好きなものなんて小学生の頃から変わっていない。
30歳を前にしても出来ないこと、分からないことの方が多い
いわゆる『大人』と呼ばれる年齢になって、そろそろ10年が経とうとしている。
早起きが出来なくなり、連勤の疲れが1日ではとれなくなった。肉体の『老い』は如実に体感するのに、就職、恋愛、結婚、出産、そういう『大人』が通って然るべきものをことごとく無視してしまったせいか、私の内面は未だに中高生の頃のままだ。
年齢とともに大人らしい振る舞いや考え方は自然と身につくようになると思っていたが全くそんなことはなく、ちょっと気を抜くとすぐに心の中の小学生が駄々をこねて『大人気ない』振る舞いをしてしまう。
社会人ならこうするだろうな、店員ならああするだろうな。そうしたいなんて思ってもいないし、それが正しいかも分からないけれど、それっぽい真似事をすることばかりが上手くなっていく。
『大人』という枠組みの中に入ったら、なんでも自分で正しく出来るようになると思っていたけれど、30を目前にして出来ないこと、分からないことの方が驚くほど多い。子供の頃には明確にあったはずの『大人』に対する基準は、自分が大人になるにつれて曖昧になり今やよく分からなくなってしまった。
あの頃思っていた『大人』との距離は、未だに縮まらないままだ。