日本では重要イベントなバレンタインは聖ヴァレンティヌスの祝日だ

聖ヴァレンティヌスの祝日、英語圏ではバレンタインデーと呼ばれて2月14日は祝われる。宗教行事が商業イベントと結びつきやすい日本では、企業のプロモーションによって一般的になったと言われている。
少女漫画からドラマに至るまで、2月の描写では定番のモチーフとなっているほど、この恋人たちの祝日は重要イベントなのだ。

とはいえ、フィクションにあるような出来事が、実際にこの日に発生したかと言えば、ほぼなかった。
田舎の小中学校にいたこともあって、特別な事情がない限りは甘いものは持ち込み禁止なのだ。告白はタイミングが合えばするものだし、学校行事の前後にひっそりカップルが一組や二組成立しているなんてこともある。
バレンタインデーイコール恋愛のリアルイベント、という認識で臨む人はあまりいなかったように思う。

私の家では、お祝い事以外でチョコレートケーキが出てくる日が2月14日だった。誰かにあげるわけでもなく、お父さんお疲れ様という意味合いが強い手作りケーキだ。
付き合いが長い異性の幼馴染に、流して固めただけのものをあげたことはある。ただしこちらも、お歳暮以上の意味はないので甘酸っぱい話は一切ない。
この手のイベントが日頃の感謝を伝える日へと帰結していくのは、田舎あるあるなのか、日本人特有のなあなあ感なのかは非常に興味深いところではある。

進学で都会に住んで驚いた。バレンタインになると百貨店が賑わう

高校になると、ちょっと事情が変わったようだ。といっても1年しかまともに通っていないので詳しくは描けないのだが。
基本的に勉強以外は口出ししてこない校風のため、間食の交換や部活後の菓子パは日常風景だった。バレンタインに至っては、器用な人はティラミスなんかを作っておすそ分けしているのだ。気の利かない自分には無理だなあなんて、こっそり落ち込んだこともある。
やっぱり恋愛イベントというよりは、仲間内で親交を深める日だった。

話変わって、大学進学で都会に行って驚いたのは、百貨店の賑わいだ。
バレンタインフェアに限らず、公式ラインから毎週欠かさず催事の通知が来る。1週間ごとに別のイベントをやるなんて、地元の小さなデパートでは考えられなかった。同じ地区に三つも四つもデパートがあること自体が既にびっくりなのだが。

私立大学ということもあって、周りには裕福な家の子も多かった。彼女たちの華やかさの秘密を知りたくて、毎週末は早起きして見よう見まねで化粧をし、慣れないヒールを履いて始発に乗った。
行く先はターミナル駅の繁華街だ。改札内のタリーズは2月にチョコレートフレーバーのドリンクを売り出していたけれど、ホイップが得意でない身にはあまり縁がない。
デパートが開く時間まで、コーヒーをお替りしながら今日はどこから見ようかなとサイトのフロアマップを眺めていた。

ヴァレンティヌス司祭がバレンタインを見たらどんな反応をするだろう

おしゃれの勉強のついでに、何度かこの時期のお菓子売り場に足を運んだけれど、やっぱり買うのは本命チョコではなかった。ありがとう、よろしくという挨拶以上の意味は込めづらいのだ。
とはいえ、どのブランドも普段よりレベルの高いお菓子を売り出す。それがバレンタインシーズンの良いところで、何を選んでも余程のことがなければ喜んでもらえるのがありがたい。

フィクションの少女たちが意気込んで迎える2月14日と、私が27回経験したリアルの2月14日。かなり意味合いが違ってくる贈答文化として、21世紀の日本では生き残っている。
天国にいるであろうヴァレンティヌス司祭が見たら、どんな反応をするだろうか。極東の異教徒たちに、自分の功績を商業利用されたことに対して怒るのか。それとも隣人愛が深まったとして喜ぶのだろうか。
キットカットにハートマークを描いて、お空へ届けてやりたい2月の寒い日のことである。