これまでの人生で、一度も男性にバレンタインのチョコレートを渡したことがない。27年間で、一度も!
中高一貫の女子校に通っていた私にとって、バレンタインとは年に一度の「本気でお菓子を作る日」であり、当日にはほぼ全ての生徒たちが、何かしらの手作りの甘いものを持って登校してくる。いわゆる、「友チョコ」というやつだ。
毎年その日は学校中の教室から、甘い香りが漂ってくる。校則でお菓子の持参を禁止していた我が母校も、バレンタインデーだけは黙認していた。先生達も貰ってしまうからだ。
あ、そういえば男の先生には、渡したことがあった!では訂正を。
私は『これまでの人生で、一度も本命の男性にバレンタインのチョコレートを渡したことがない』。
悩むお客さんとチョコレート見ながら、私は色んな妄想に駆られる
大学生の頃、学業があまりにも忙しく、長期休暇中に短期バイトをするしかできなくて、2回生の春休みにあるチョコレート屋さんのバレンタインの催事で働いていたことがある。
大阪にしか店舗のないそのチョコレート屋さんは、綺麗なプラリネや小さなチョコレートボール、レモンにチョコレートがコーティングされたものに、1番の売りは生チョコだった。
値段は比較的高めなのだけれど、味はどれも外れなく美味しい。特に生チョコは、こっそりつまみ食いした試食の小さなカケラに胸打たれて、後日買いに走ったほどだ。
2月の頭から14日までの2週間だけだったけれど、そこで買っていくお客さんと買われていくチョコレートを見ながら、私は色んな妄想に駆られていた。
チョコレートの入ったショーケースの奥にいると、大量のチョコレートを前に悩みまくっているお客さんたちを、嫌でもじっくりと観察することができた。
子連れのお母さんやカップル、OLらしき人や、一人でふらりとくるマダムに制服を着た女の子。
子連れの奥さんは、きっと旦那さんに渡すんだろうな。カップルは買って帰って、一緒に食べるのかな。OLさんは彼氏か……気になってる人に渡したりするのかな?マダムはきっと旦那さんか……ご近所さんと交換、なんてこともあるのかもしれない。学生さんは、彼氏か家族か……もしかすると、好きな先生だったりして。
この素敵なチョコレートたちは、どんな思い出の中に残るのだろう
そしてこの素敵なチョコレートたちは、どんな思い出の中に残っていくのだろう。
キラキラした思い出かな。それともキュンキュン?うっとりと彼女のことを思い出しながら食べたり、美味しさに気を取られてうっかりチョコレートに夢中になっちゃったり……なんて。もしくはチョコレートを選ぶセンスの良さに惚れて、恋が実ったりもしたのかな。
バレンタイン当日も売り場に立ってぼーっとしていた私の代わりに、買って行ったお客さん達や買われていったチョコレート達はどんなバレンタインデーを過ごしたのだろうか。私には知り得ないことだけれど、全てのお客さんにとって素敵な思い出になっていたら良いのにな、と今になって思う。
ぼーっとしていた私は、ここ数年間のバレンタインの記憶がない。その日に合わせて何か作った記憶もなければ、誰かに渡した思い出もない。去年なんて、特にない。
かろうじて思い出せるのは、何年か前に姉と行った「サロン・デュ・ショコラ」の、並んで手に入れたソフトクリームとチョコのピザ……。今年のバレンタインこそ誰かにチョコレートを渡したいと、婚活を始めた数ヶ月前からずっと考えていたのに、バレンタインまで1ヶ月切って何の予定もない……。
しかし2月の頭には、友人と二人でお昼に街コンに参加した後、夕方に合コンという過激スケジュールの1日が待ち構えている。私にとって人生3回目の街コンに、人生2回目の合コンである。
そこで心惹かれる男性に巡り会えれば良いのだけれど、それは神のみぞ知る未来だ。