高校2年生の11月、初めての彼氏ができた。それまで、恋愛に興味なんてなく、恋愛経験なんてすずめの涙程度だった私にとって、大恋愛であったと思う。
私は、その彼に謝りたいことがある。

彼とは、高校の理系クラスで一番成績の悪いクラスの一番後ろの席で、よく隣に座っていた。お互い、クラスで成績はビリを競い、やる気のなさや不真面目さではトップを競っていた。
だから、彼と隣が良くてそこに座っていた訳ではなく、居心地よく眠れる席を互いに求めていたら、その席に行きついた。

勉強しない私達は、大学受験を控えた高校2年の冬に付き合い始めた

ある日、英語の授業で答えを友達に写させてもらったノートを開いて寝ていたら、彼から声をかけられた。
「俺、明日授業であてられるんだよね、ノート写させてくんない??」
友達に聞いとく、とだけ返事し、また机につっぷした。その日の夜、彼の言葉を思い出し、頭の良い友達に答えを聞き、クラスのグループLINEから彼の連絡先を引っ張り出し、彼にスクショをそのまま転送した。それをきっかけに彼とのLINEが始まった。
普段勉強をしない私達は、部活が終われば暇になり、学校から近い新宿や渋谷に遊びに行った。そんなこんなで、いつのまにか付き合うことになり、大学受験を控えた高校2年の11月あたりに付き合うことになった。

高校3年生の夏、他のクラスメイトは受験勉強に勤しむ中、私達は塾に行くと嘘をついて、毎日遊んでいた。彼のことが大好きで、彼しか見ていなった。
しかし、彼は夏終わりから徐々に勉強するようになり、塾にも真面目に行き始めた。彼と会う頻度が減り、遊び相手がいなくなり暇になった私は、たまに勉強をしながらボケっと過ごしていた。
いつのまにかセンター試験が終わり、大学受験の2次試験を迎えていた。勉強していなかった私は、どこの国立大に入れる訳でもなく、滑り止めの私立大にすら落ちた。
別にショックではなかったし、浪人すればいいや、くらいにしか思っていなかった。案の定、親に香川県にある予備校の寮に強制的に入れられることになり、彼とは離れ離れになることになった。

建築士の夢を叶えてほしい。妥協して受かった学部に入ってほしくない

香川に行く数週間前、彼から久しぶりに連絡がきた。某地方国立大後期の〇〇学部に受かったと。
びっくりした、彼がそんな真面目に勉強していたとは。私は、ひとりどこか遠いところに取り残された気分だった。

春休み、彼と久々に会うことになった。彼が受かった国立大に入ることにしたと言った。その時、前に2人で行ったみなとみらいで彼が言った言葉を思い出した。そびえたつビルを見て、
「俺、大人になったらこんなビルを建てたいんだ。だから、建築学部を目指すよ」
と。そんな彼の目がきらきらして綺麗で、かっこよかった。だから、彼には妥協して受かった学部に入って欲しくなかった。建築士になって欲しかった。
私は彼に対し、「建築士を目指すんじゃなかったの??受かっただけの学部になんて入らないでよ」と言ってしまった。そのことで彼と喧嘩になり、その日以来彼と会うことなく、香川に行くことになった。

どうしてあの時、正直におめでとう、と言えなかったのだろう

予備校が始まり5月になった頃、彼から別れよう、とだけLINEがきた。
彼も周りも、次のステップに踏み出しているのに、自分だけ予備校の寮という監獄に閉じ込められた気がして、悲しかった。しかし、その後、ものすごい後悔が襲ってきた。
どうしてあの時、正直におめでとう、と言えなかったのだろうかと。自分の嫉妬であの言葉を言わなければ別れることもなかったかもしれないし、彼を傷つけることもなかったかもしれない。

24の今になって思う、人それぞれ自分の道は自分で決めるものであり、彼だってものすごい決断をして、自分の進路を決めたのかもしれない。自分の未来ことすら考えず、ぼんやり過ごしていた私なんかより、何倍も立派だ。

だから、もし彼に会えたら直接言いたい、あの時は正直におめでとうと言えなくてごめんね、と。
あの時以来彼には会っていないが、彼のSNSで、今年中学校の教員になる、というコメントを見つけた。人当たりの良い、優しい彼にはぴったりな職業だと思った。
彼は、彼なりの人生を見つけ、また次のステップに踏みだそうとしている。そんな素敵な彼と付き合えたことを誇りに思うし、自分も夢に向かって頑張ろうと、この文章を書いて改めて思えた。