人生初めての告白は、手作りの生チョコレートで

2月、ある日の下校時間。私は制服のスカート丈をいつもより少し短くして、うつむきながら自転車を押していた。
自転車のカゴにはチョコレート。ケータイで待ち合わせした場所までもう少し。向こうはもう着いているかもしれない。早く会いたくて急ぎたいような、永遠とこのまま歩き続けていたいような。

到着すると、制服姿の男の子が立っていた。
自転車を止めて、カゴからチョコレートを取り出す。自分の動き一つひとつに変なところがないか気をつけながら、前髪を整えて男の子のそばに行く。向こうはもう私に気付いてこちらを見ているのが分かるから、余計に緊張してしまう。
「待った？」とか、「寒いね」とか、軽い雑談を挟む余裕なんて、当時の私にはなかった。

「はいこれ……付き合って下さい」

綺麗な長方形になるように、細心の注意を払って切り分けた手作りの生チョコレート。あまりにベタだと恥ずかしいから、箱と紙袋はブルーを選んだ。
受け取ってくれた彼の表情は覚えていない。
また連絡するねと言われ、お互いにすぐその場を離れた。

人生初めての告白は、終わってみれば一瞬だった。

メールのやりとりにデートも。気分は少女漫画の主人公だった

同じ幼稚園に通っていた。お互いその場所を離れて高校生になった頃、偶然近くに住んでいることを知った。高校は自転車で行き来できる距離。文化祭で再会した彼は、とても格好良くなっていた。

「運命じゃん？」
友達はそうやって私を囃し立てたし、私もまんざらではなかった。突然自分が少女漫画の主人公になった気がして、気付けば授業中も部活中も彼のことを考えていた。

赤外線通信で交換したメールアドレスで何度もやり取りをした。あけおめメールが来た時は嬉しくて、しばらくの間ベットの上でじっとメールを眺めていた。
いわゆるデートの機会もあった。友達にメイクを教えてもらい、アイライナーとマスカラを覚えた。不慣れな髪の巻き方を練習した。
デート終わりに鏡を見てパンダ目の自分にギョッとしたけれど、その後もメールは続いたのでホッとしていた。

告白の結果は、玉砕だった。

恋に恋した妄想のようだけど、胸の痛みも残っている

メールでさらりと伝えられたその返事を、私はあまり覚えていない。
でもしばらくはそのことで頭がいっぱいで、それでも学生生活は目まぐるしく過ぎていく。
ふわふわとした毎日の中で、ふと学校の廊下に貼られたポスターが目にとまった。
365日分の誕生花、一つひとつに花言葉が添えられている。私の誕生日は……。

「恋のとりこ」

私は恋をしていたのか、恋に恋焦がれていただけなのか。
切ない終わり方をしたはずなのにどこか他人事で、でも間違いなく漫然とした毎日を彩ってくれた感情で、すべては自分が作り上げた妄想だったような気もするけど、誰の目にも触れず心の奥にしまっておきたい痛みも残っている。

バレンタインは幼い私が少し背伸びをして大人になった、そんな日だ。