20代会社員。
世間一般ではもう大人。
だけど、私は大人になりきれていない。
小学生から大学まで、成績は上の中くらい。
部活では大した結果は残せなかったものの、内申書のために最後まで続けた。
定期的にある服装チェックには一度も引っ掛かったことがなく、先生方からは"真面目で模範的な生徒"と評価されてきた。
友だちもそれなりにいて、普通に学生生活を送っていた。

色めき立ち、大人になっていくみんなに私はついていけない

何の問題もないように見える私にも、ある悩みがあった。
私は周りについていけなかった。
勉強や部活にではない。
"大人になっていくみんな"にだった。
思春期真っただ中の中学生時代。
クラスのあの子が誰と付き合っているとか、クラスのモテる男子が告白されたとか、当時はとにかく色めき立っていた。
恋愛にまったく興味がなかった私は、周りの会話をただ聞き流していた。

ある日、仲のいい友人と図書室の隅で話しているときだった。
男子の先輩が友人に声を掛けてきて、会話に加わった。
私は2人の会話を聞きながら、適当に相槌を打っていた。
すると先輩が、不意に友人を指差しながら私にこう言った。
「こいつね、ヤリマンなんだよ」

友人は「違うし!」と言って笑いながら、先輩の肩を叩いていた。
私は言葉の意味が分からず、「それってどういう意味ですか?」と聞いた。
先輩はニヤニヤ笑いながら、「こいつみたいな女のことだよ」と応えた。
それでも意味が分からなかった私は、頭の中で「男友だちが多い女の子のことかな?」と勝手に解釈した。

同級生の会話も先生のアダルティな発言も、知らない国の言葉みたい

それから少し時が過ぎ、高校の英語の授業でのこと。
学校で一番怖い女の先生の授業だったこともあり、集中して話を聞いていた。
すると、先生が何かを言い、他のクラスメイトたちがどっと笑い出した。
私だけ分からずキョトンとしていた。
前の席の子に聞くと、ノートに漢字を書いて見せてきた。
国語は得意だが、私にはその言葉の意味が分からなかった。
「これ、何て読むの?」
私が再び聞くと、彼女は「モテない男子のことだよ」と応えた。
それから「みちるは純粋だからね。忘れていいよ」と言って、彼女は前を向いてしまった。

クラスメイトたちの会話も、中学の先輩や高校の先生が発したアダルティな言葉も。
私にはどこか知らない国の言葉のように理解できなかった。
大人になって知識が増えた今でも、まだまだ他人より遅れているなと感じる。
恋愛や性に関することに触れるたびに、色んな感情が湧いてくる。
大人な会話をしているときに戸惑ってしまい、何となく自分の笑顔が引きつっている気がする。

自分らしく生きたいと思いつつ、どうしても避けて通れないこともある

あからさまに卑猥な言葉を口にしている人を見ると、汚らわしいと感じてしまう。
恋愛をする中で、どうしても不安になり拒絶したくなってしまう。
当たり前のように恋愛できて、結婚している友人たちが羨ましい。
自分らしく生きたいと思いつつ、どうしても避けて通れないこともあると気づいた。
「もういい歳なのに」と言われるかもしれないが、私はそんな現実をまだ完全には受け入れられていない。
本当の意味で、私は大人になれていない。
体はどんどん年を取るのに、中身は比例してくれない。
大人になりきれない自分への嫌悪感と、未来への不安だけが増していく。
いつかこんな私を理解し、一緒にゆっくり歩んでくれる人は現れるのだろうか。