高校3年生の時、私には好きな人がいた。
彼は成績優秀で運動も得意、文武両道を体現化したような人だった。その反面、嫌われない程度のいたずらやちょっかいをするお茶目な面もあった。明るく前向きな彼は、周囲から好かれていた。

ただのクラスメイトから、好きだと確信した頃には受験生になっていた

1年生の時、別のクラスだったが彼の存在を知っていた。
当時の希望進路がほぼ同じだったことから、特別授業や進路行事などで顔を合わせることが何度かあったのだ。

2年生からは同じクラスになった。私の高校では2年生以降は進路ごとにクラスが分かれるため、2年間、同じクラスメイトと過ごすことになる。
当時の私は人見知りだったが、幸い2年生の終わり頃には女子全員と一部の男子と話したり、仲良くなることができた。しかし、彼とほとんど言葉を交わすことはなかった。

3年生、受験生となった。初日に席替えがあり、彼の隣の席になった。
最初はあまり会話がなかったが、ひょんなことから彼が私にちょっかいを出すようになった。それから会話をする機会が段々と増え、日々の楽しみになり、彼のことを意識するようになった。

しかし受験生である以上、恋愛にうつつを抜かしてはいけない。私は2年生の時、大幅に進路を変更した。その志望校に受かるかどうかギリギリの成績だったため、受験勉強に勤しむ毎日を送っていた。
その一方、最後の高校生活ということで学校行事やクラスメイトとの会話を楽しみ、これらをモチベーションに受験生活を過ごした。そんな中で彼のことが好きだと確信したが、受験勉強と自己肯定感の低さから、告白はしないと決めた。

クラス全員に配るバレンタイン、彼にはメッセージがないチョコを渡した

月日は過ぎ、1月の共通試験を終えた。2月は各大学の試験が行われるため、受験勉強のラストスパート。
私の志望校の志願者は学内で私だけ。高校を卒業したらクラスメイトとの接点が少なくなるのは確実だった。もちろん彼とも。そこで、お世話になったクラスメイトへバレンタインデーにチョコを渡すことにした。

チョコを渡すといっても、手作りしたり、何を渡すか深く考える時間はない。なのでチョコ菓子のパックを用意し、クラスメイトに一つずつ配ることにした。
チョコは個包装で、受験生を応援するメッセージが添えられていた。中にはメッセージを書き込める空欄のものも含まれていた。

そして2月14日、クラスメイト一人一人にチョコを渡した。自然な流れで彼にも渡した。他のクラスメイトにはランダムにチョコを渡したが、彼にはあえてメッセージのない、空欄のチョコを渡した。

3月、合格発表。私は第一志望校に合格した。彼も第一志望校に合格した。他にも志望校に受かったクラスメイトが何人かいた。私はとても嬉しかった。

私が空欄のチョコに込めた、彼に伝えたかった想い

私が彼に空欄のチョコを渡した理由。もし彼が空欄のメッセージに気づき問われたら、私の想いを彼に伝えたかったから。それは、「大丈夫」という言葉。

私は彼を好きになる前から、無意識で彼を見ていた。
私と同じく、途中で進路変更をしたこと。
変更した志望校は、優秀な彼でも難しい難関校であったこと。
受験のために部活を退部したこと。
友人との交流も大切にし、メリハリをつけて熱心に勉強していたこと。
前向きな彼が成績に悩み、落ち込む姿を見てしまったこと。
それでも気持ちを切り替え勉強に励んでいたこと。

こんなに頑張ってきた彼でも合否がどうなるかは分からない。でも彼を見てきて思った。
どんな結果になったとしても、彼は自身の状況を慎重に考えて、進路を選択をすることができる。彼なら大丈夫だと。

あれから8年が経った。大学進学後に何度か交流はあったものの、次第にそれは途絶えていった。彼は今どこで何をしているのかわからない。
でも、彼ならどこに行っても、何があっても、きっと大丈夫。