クラスのムードメーカーの私。チョコが苦手とは言えなかった

高校二年生のバレンタインデーを、私は一生、忘れないだろう。
その日はとても幸せな日でもあり、ちょっとしたハプニングがあった日でもあった。

高校生のころの私は、明るい性格でクラスの中で「ムードメーカー」的な位置づけだったように思う。男女問わず仲良くしていたし、担任の先生からもあだ名で呼ばれるぐらい、みんなと仲が良かった(先生と仲良しという言葉はどこか語弊があるかもしれないが……)。

高校二年生といえば……青春真っ盛りである。
恋バナで盛り上がったり、体育祭で騒いだり、文化祭で一致団結したり……時にはクラス内ですれ違いが起きたり、泣いたり笑ったり……。
思い返してみても毎日がとても楽しかった。

毎日が楽しいのに、いつにも増して盛り上がるイベントが「バレンタインデー」だった。
私のクラスは全員仲が良かったので、「バレンタインデーには、みんなで友チョコを配りまくろう!」と息巻いていたほどだった。
しかし、みんなが意気揚々とバレンタインデーを楽しみにしている中、その雰囲気に馴染めない人間が一人だけいた。

……それが私だった。

実は……チョコレートが苦手だったのだ。
でも、こんなに盛り上がっているのに、「実はチョコレートが食べられません!」なんて言えるはずがない。
実は、仲のいい友達には打ち明けようとしたのだが、
「私、バレンタインデーの日に、おいしいお菓子めっちゃ作ってくるから!楽しみにしててね!きっと喜んでくれるはずだから!」
と、それはそれは後光が射すような素晴らしい笑顔を見てしまった。純粋な気持ちが心に沁みて、思わず合掌したくなったほどだ。
そんな友達の輝かしい笑顔を見てしまった後では「チョコレート、本当はダメなんだ……」とは言えなかった。

輝きを放つ手作りチョコたち…嬉しいけどこんなにたくさん?

待ちに待った(?)バレンタインデー。私はその盛り上がりに大いに驚いた。
手作りお菓子のクオリティーが高すぎる……繊細なデコレーションを施したチョコクッキーの数々……トリュフや生チョコ、生キャラメルといった豪華なお菓子が輝きを放っていた。
私が作ってきたお菓子は普通のプレーンクッキーだった。レシピ通りに作ったので味は悪くないはずだが、派手さが全くなかった。
でも、私の友達は「もらえて嬉しいよ!ありがとう!」と言って受け取ってくれた。
結構な数を作ってきたのに、まさかの完売。これには驚いた。
でも、驚くべき出来事はこれからだった。

どんどん増えるチョコレートの山。
まるで、少女漫画の中で描かれる超絶イケメンがもらうチョコレートの量に匹敵するんじゃないか?と思えるぐらいの大量の手作りチョコレート……。
これには開いた口が塞がらなかった。
私がいつも昼ご飯をモリモリ食べていたからなのか、「大食い」のイメージがついていたらしい。「すももちゃんなら沢山食べるだろう!」と考えてくれた子が大量のチョコレートを用意してくれたのだった。

嬉しい……嬉しいけれど……この量、食べきれるかな?というのが私の本音だった。
でも、美味しく頂くことを決心した私は、大量のチョコレートに立ち向かったのであった。

甘いのが苦手な私の熾烈な戦い。結末も漫画みたいになった

手作りチョコはすぐに悪くなってしまうので、なるべく早く食べなければならない。
そのため、学校に帰った後、すぐにチョコレートを食べ始めた。

始めは久しぶりに食べたチョコレートに感動し、美味しく頬張っていたのだが、しばらくするとすぐにギブアップ寸前までいってしまった。
美味しいのに……本当に美味しいのに。甘いものが苦手な私にとっては、チョコレートとの戦いは熾烈を極めた。
大量のチョコレートの量は少しずつ減っていったが、まだまだ先は長かった……。

そんな戦いの最中、母親が私に声をかけてきた。
「ねー。チョコレート食べていい?あんた、沢山持ってるじゃん」
「友達が私のために作ってくれたから、ダメ」
「いいじゃん。ケチ。……あれ?」
「……何?」
「あんた、……鼻血出てない?」
は……?と思って、鼻を拭って見たら、本当に鼻血が出ていた。血イイイイイ!!!!

チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出るという話は諸説あるらしい。が、人によってはカフェインの影響で鼻血が出ることもあるらしい。
その上、垂れてきた血でワイシャツが汚れて大変だった(後日談)。
“漫画みたいな展開”を、身をもって体験したのだった。
この血に染まったバレンタインデーを、私は一生忘れないだろう。