高校3年生までの間、バレンタインデーにはお菓子を大量生産し、友達同士で交換をするという友チョコ文化があった。材料費もお小遣いでは馬鹿にならないし、何よりお菓子作りが苦手な私はバレンタインデーにプレッシャーを感じていた。

しかし、中学2年生のバレンタインデーは特別であった。気になる男の子に渡すことになったからである。

「バレンタインちょうだい」。仲良しの男の子から突然のお願い

その男の子とは小学生の頃から仲良しで、よく話す間柄であった。ある日突然、「バレンタインちょうだい」と言われた。
私は「しょうがないなあ」だなんて何でもないふりをして答えたが、他の男の子にチョコをせがまれるのとは何か違う気持ちを感じていた。恋愛経験のなかった私が、これが恋だと気がつくのはもう少し先の話である。

バレンタイン1週間前。さあ何を作ろうかと悩む日々が始まった。
あまり難しいものは作れない。けれど周りと被るものを作りたくない。そんなことを考え、生キャラメルを作ることにした。
生キャラメルは材料を溶かして型に入れ、冷蔵庫で冷やすだけのお手軽お菓子である。それにバレンタインにキャラメルを渡す意味は、「一緒にいると安心する」だそうだ。気になるあの子に渡すのにぴったりである。

バレンタイン前日、お菓子を作る日がやってきた。工程は簡単で、すぐに作り終わった。
だが、失敗した。生キャラメルが柔らかすぎて、型に張り付いてしまい取れないのである。

こんな簡単なお菓子も作れないのかと自己嫌悪に陥りながらも、家にあったホットケーキミックスをたこ焼き器で焼いて、中にキャラメルを入れようか……と打開案を考えた。
そんな時、母に「なんでそんなに頑張ってるの?」と言われて我に返った。急に恥ずかしくなった私は、「別に!」と言って、そのまま生キャラメルを冷蔵庫にしまった。翌朝に固まるよう祈りながら。

ふわふわしたバレンタインデーの教室。生キャラメルを彼に渡した

バレンタイン当日、少し早起きした私は生キャラメルの様子を見た。私の祈りも虚しく、生キャラメルは柔らかいままであった。
けれど、美味しいからまあいいかというスーパーポジティブシンキングを発動し、キャンディ風に包んで袋に入れた。

学校に着くと、教室はバレンタインデーならではのふわふわした雰囲気に包まれていた。お菓子は持ち込んではいけないため表面上では何もないように装っているが、女子は手作りお菓子をこっそりと渡し、男子は何個もらったかをお互いに確認しているようだった。

私もお菓子交換をし、失敗した生キャラメルでいっぱいだったスクールバックは、友達が作ったお菓子でいっぱいになった。ブラウニー、生チョコレート、パウンドケーキ……。どれも美味しそうである。皆すごい。

そんなこんなで生キャラメルは残り1人分になった。あとは気になる男の子に渡すだけである。
その男の子は後ろの席だったため、振り返って「ちょっと失敗しちゃったけど」と言って渡した。男の子はお礼を言ってくれた。
周りの子に冷やかされて照れている様子であったが、私は満足して前を向いた。

いつかまた、特別なバレンタインデーを過ごしたい

大学生となった現在、いつの間にか友チョコ文化はなくなった。恋人のいない私にとって、バレンタインデーは普通の日になった。
いつかまた中学2年生の頃のように、特別なバレンタインデーを過ごしたいものである。
それまでに私は、お菓子づくりの腕をあげなければならない。