この4月から大学院へ進学する。
進学理由は、もちろん「研究が好き」という気持ちもあるが、一番大きいのは「就職のため」だ。
私が学んでいるのは美術史。しかも西洋美術史だ。
就きたい職業は、日本語で言う「学芸員」、英語で言うと「curator」。近年はカタカナで「キュレーター」と言ったりもする。いわゆる「美術館の裏方」だ。
「学芸員」はニュアンス的に展示会業務が多い。それに対して「curator」は研究が主であることが多く、経験を積んだエリートであるといったニュアンスを含む。
日本は美術館が少ないことも関係してか、募集人数はかなり少ない。その狭き門を通るために、プラス2年の専門的研究と修士号が必要なのだ。
厳しい就職状況を有利にするため、ロンドンの大学院へ留学する予定
大学院修士課程を2年間で終えたあと、私はイギリス・ロンドンの大学院へ留学することを予定している。
本当は日本の大学院は行かずに、大学修了後すぐに留学することを考えていたのだが、コロナ禍であることを考慮して、より良い環境で学べることを最優先にしたためだ。
なぜ留学をするかというと、それも「就職のため」に他ならない。
私の専門はイギリス美術だからだ。
もちろん日本に西洋美術を扱う美術館がないわけではない。国立美術館のひとつには、文字通り「西洋美術館」がある。
日本では、とにかく募集が少ないのだ。年によっては募集がかからないことも多々ある。
また、「非正規雇用」であったり、「任期付き」での採用となることがほとんどだ。
そもそもの採用が少なく、さらには待遇がよくない。
それに加えて、私の専門とする分野の作品を収蔵しているところがないのだ。
そのため、「curator」の本分である継続的な研究はできず、「学芸員」のニュアンスに近い、展覧会業務のなかでのみ(運が良ければ)専門分野が発揮でき、基本的には門外漢の分野に携わることがほとんどになってしまう。
そのために留学をして、現地の美術館への就職を有利にしたいのだ。
……というのは、本当は建前なのかもしれない。
本当は日本と違う労働環境で、自分を試したいだけなのかも
通っていた高校はアルバイト禁止だった。大学入学後から今までの4年間で、私は6個のアルバイトを経験している。そのうち、最初と最後のアルバイト以外は2ヶ月以内で辞めている。
最初は大学経由で募集された、新設美術館の受付。上司のパワハラで8ヶ月で辞めた。
次はファミレスのホール。店長と同僚からのパワハラで1ヶ月で辞めた。
塾講師。コロナで帰郷のため1ヶ月で辞めた。
塾講師その2。シフトの融通が利かなくて2ヶ月で辞めた。
巫女。7時間労働休憩なしのブラック労働環境に体調をくずして正月のみで辞めた。
塾講師その3。教室長のパワハラと残業代未払いで9ヶ月で辞めた。
現在大学4年生の春休み。一番の稼ぎ時に、無職。
この他にも単発の派遣のアルバイトに2箇所ほど行っているが、これも水が合わなくて文字通り単発の一回しか行っていない。
友人たちには「ブラックバイト引き寄せマン」と呼ばれているが、自分でも呆れるほどにうなずくしかない。
ここまでくると、ブラックバイトが悪いのか自分が悪いのか、分からなくなる。
だからこそ、イギリスという、日本とは違う労働環境で自分を試したいだけなのかもしれない。
留学中は、制限はあれど、現地でアルバイトもできる。
「大学生活は究極のモラトリアム」だというが、留学は3期間目のモラトリアムだ。
新しい環境で、私は、社会不適合ではないと証明したいのかもしれない。
就職と、自分の証明のため、私は留学する。