いつもニコニコ微笑むじぃちゃんは、ずっと元気なものだと思っていた

もし今あなたに会えたなら、その両手を握りたい。
私の記憶の中よりも、あなたの両手は小さく、細く、冷たいかもしれない。血管がボコリと浮かんでいて、骨も浮いているかもしれない。でも、ずっと私を自慢だと笑っていたあなたに、少しでも私の熱が伝わればいいと思うから。

祖父は二人いるけれど、覚えているのは母方の祖父一人だけだ。父方の祖父は私が母のお腹の中にいる間に亡くなった。
だから、家族の中で「じぃちゃん」という単語が指す人は一人だ。一人称が僕で、背が高くて、ニコニコ微笑むじぃちゃん。

大学の時に一人暮らしを始めた。折を見て帰省はしていたが、実家にいる両親には会えても離れた場所で暮らすじぃちゃんに会うのはちょっと難しい。私の予定、母の予定、じぃちゃんの予定、何なら叔母さんや姉の予定も合わせるからだ。
思春期のゴールを目前にしていた私は気恥ずかしさから、なかなか会いたいとは言い出せなかった。無条件に、じぃちゃんはずっと元気なんだろうと思っていたからだ。

じぃちゃんの状況を知った私。母に会いたいことを伝えると…

そんなこんなしていて会えない日々が続いていると、全然知らないところでじぃちゃんが癌になっていた。手術して、人工肛門というものを付けたらしい。
誰も教えてくれない間に、じぃちゃんは多目的トイレが必要な人に変わっていた。知識がなくても、それなりにショックを受けた。
それから転移が見つかって、また治療して。肺に転移したらしい。その時期、私は新卒で就職したばかりで、ゆっくり母とも電話が出来ていなかった。もう治療の大詰め、という段階で、ようやく聞かされた。コロナの少し前のことだった。

「今、おじぃちゃんに会ったらびっくりすると思う」
先日、母に言われた。
「痩せた?」
「うん……ちっちゃくなった」
じぃちゃんは、また私の知らないところで苦しんでいたらしい。訪問介護を受けるために色んな手続きをしているんだとか。ちょっとでも顔見せられないかな、と母に言うと、渋い顔をされた。
新しい人とのやり取りが増えて、じぃちゃんも、母も、少し疲弊しているらしかった。会うための気遣いをする余裕が、中継役でもある母にはないように見えた。
痩せて、ちっちゃくなって、首が曲がって、坊主になった、じぃちゃん。
会いたいのは私のわがままでしかないけれど、会いたいなと思った。

会って手を握りたい。ねえ、おじぃちゃん。私は自慢の孫のまま?

実はじぃちゃんは、大手企業で長く勤めた後に早期退職をして、株で生計を立てて悠々自適の生活をしている、ちょっとすごい人だ。近所のファミレスの株を買って、優待券で私や従弟たちをよくご飯に連れて行ってくれた。
そして地方のしがない大学に進学した私を、ご近所さんに自慢していたらしい。
恥ずかしいけれどその分嬉しくて、じぃちゃんの前でだけは大学のことを卑下しないようにしていた。自慢の孫でいたかった。
いつ会いに行っても、満面の笑みとたくさんの果物で出迎えてくれた。私とよく似た面長の顔で、会うたびにたくさんの愛を示してくれていた。嬉しかった。じぃちゃんが大好きだ。

だから、おじぃちゃんに会いたい。会って、手を握って、今の私を見せたい。最近少しずつ勉強しているハンドマッサージをしながら、色んな話をしたい。今の仕事のこと、最近楽しかったこと、この間行った京都で買ったものの話、最近好きな紅茶のこと。おしゃべりな私の話を、昔みたいに頷きながら聞いてくれないだろうか。
結婚は予定がないし、ひ孫もまだ抱かせてあげられない。でも、ねえおじぃちゃん、私、自慢の孫のままかな。
会いたいよ、おじぃちゃん。