私は今、部屋の片づけを進めているところだ。それは来月生まれる赤ちゃんの為に、ベビー用品を準備しているからである。
クローゼットの奥の方に借りっぱなしのCDを見つけた。私の人生の中で多分、一生忘れられない彼からの借り物だ。

私と元彼は一緒にたくさん過ごして、いつかは結婚すると思っていた

彼とは中学3年から高校3年と、21歳から24歳の合計7年付き合っていた。友人が少ない私にとっては、幼なじみのような存在でもある。
地元のボランティアサークルで知り合い、同じ中学校に通いつつも校内ではあまり関わらず、校外の活動で仲良くなった。同級生のメンバーが他にもおり、だんだんその中の男女4人で遊ぶことが増えて彼と付き合うこととなる。
高校になると学校は離れ離れになり、彼から「好きな人が出来た」とフラれたのだが、数か月後にいつの間にか復縁していた。
高校卒業後はお互い就職をして、過ごす環境や生活リズムが変わったせいか、今度は私が別れようと伝えた。しかし、就職して3年後、生活が落ち着いてきた21歳の時にまた復縁を果たす(その間もボランティアには2人とも顔を出していたので交流はあった)。

彼は、平和主義で、いつもまわりを気にかけているような人で優しかった。リュックのチャックが全開だったり、アパートの鍵の内側から閉める方法が分からなかったり、時々心配になるところもあって可愛い人だなと思っていた。
私が休みの日、彼が午後から仕事でも午前中の短い時間だけでも会ったり、私の仕事終わりに夕飯を食べに行ったりして、友人と会うことよりも優先して彼に会っていた。今思えば、すごくお互いに時間を費やしていたと思う。

私が行きたいと言った場所に旅行したり、共有のお財布を作って出掛けたり、好きなアーティストのライブに行ったり、特に何もなくても一緒の部屋でテレビを見て過ごしたり、私の両親が旅行で家を空けるからと彼に泊まってもらったり、両親と姉達の旦那さんも含めて一緒にご飯を食べたりもしていた。
お互いこのままなんとなくいつかは結婚するのだろうなと考えていたと思う。

出張で3か月、彼と離れて生活することになった

勝手に自分の中の予定では25歳で結婚、26歳で出産して数年後にもう1人と考えていた。まわりの子は結婚したり、もう子どもが2人いて家を買っていたり、授かり婚の子もいた。
なんとなく彼に「結婚はいつする?」と聞いてみたけど、なかなか話は進まなかった。一緒に出掛ける時や楽しいはずの旅行でも、変に彼に期待して、気を遣って疲れてしまい、思うようにいかない時間がだんだん増えていった。

24歳の時、私の仕事で地元の愛知県から長野県への3か月間の出張の話が出た。
正直行きたくなかった。後輩も異動の話が出ていて、それまでの勤務体制がガラッと変わるような時期だった。
元々、その会社で長く働こうとは思っていなかったし、いつか結婚したら辞めようとも考えていた。「そのうち辞めるなら、これで最後の出張にしよう!」と行くことを決めて、愛知と長野はさほど遠くはないし、会おうと思えば会えるくらいがいい機会かもしれないと、しばらく彼とは離れてみることにした。

正直、それまでの彼と過ごした時間が恋しかった。その間は連絡を取らずに、思う存分1人や同僚との時間を過ごしてみた。
いざ違う場所に行き、それまでと違う人と関わり、今までしてこなかった生活の中で自分の中の視野が広がっていくのが不思議な感覚だった。

離れてみて感じた。ずっとそばにいることが1番の幸せではない

3か月間の出張が終わったのと同時に、私は25歳になった。
地元に帰って少しして、一度彼と会った。彼は相変わらず、優しくて楽しくてあっという間に時間が過ぎた。
彼は実家を出て、市内のアパートで1人暮らしを始めたという。いつも旅行などの手配などは私がしていたのですごく驚いた。自分で調べて、予約して、悩んで決めたのかと思うと、それまでの彼とは違って見えた。
離れてみて、ずっとそばにいることが1番の幸せではないと感じた。お互いの時間があるからこそ、2人でいる時間がもっと幸せになると感じた。

また一緒にいたら、きっと彼の良いところを私がダメにしてしまうかもしれないと思い、これまで何度も別れては復縁していたけれど、これで本当に最後だなとお別れをした。
彼は「わかったよ」と穏やかでさわやかだった。私はきっと、「まわりが結婚しているから結婚しなきゃ」とか「あの子はもう子ども産んでいるのに」とか、比べなくていいことを比べて焦って空回りしていた。
彼と別れて、まわりと比べなくていいこと、自分のペースで生きて行ければいいなと少し身軽になれた気がした。

しばらくして今の夫とご縁があって結婚を前提にお付き合いが始まり、なぜかトントン拍子に事が進み、入籍した。彼も結婚したようで、いつの間にかSNSのアイコンが幸せそうな奥さんとの2ショットに変更されていた。

長く一緒にいた時間は、とても幸せだった。彼がいなかったら私の今の考え方や生き方はきっと生まれていないだろうし、夫ともきっと結婚していないと思う。
仮にあの時別れずに一緒にいる選択をしたらとたまに妄想してみるが、やっぱりうまくいかなさそうだ。
たぶん彼への当時の不満は、自分への不満だったのだと思う。それに気が付けずにいたと思うので、行動してみて良かったと思っている。

もし今彼に会えたら、「今私は幸せで、おかげで生きやすくなったよ」と伝えたい。ついでに、私の今の大きなお腹も見てもらいたい。そして、借りっぱなしのCDも返したい。長いこと借りていて申し訳ない。
地元に帰ったらボランティアの同級生と集まれたら楽しそうだなと思う。それまでは大事にCDを保管しておこうと思う。
本当に良い思い出をありがとう。