不安だった私を安心させるように、父は「大丈夫だよ」と言った

私は「ひとり」のとき旅に出る。お金と暇な時間を見つけては日本各地を旅している。
ただし、有名な観光地を巡る旅ではない。どこにでもあるような通りを、さも現地の人かのように歩くことが何よりも楽しいのだ。

2017年、高校2年生だった私は、父親にスウェーデンに連れて行ってもらった。
それまでの旅はすべて旅行会社が企画したツアーに参加するものだった。この旅で初めて自分たちでルートを決め、ホテルをとり、使う交通機関を決めた。
旅行が楽しみというより苦手な飛行機に乗らなくては行けないこと、知らない土地ましてや日本語が通じない土地に行くことに不安を感じていた私を安心させるように、父はこう言った。
「大丈夫だよ。スウェーデンは世界的に見て治安が良い国だ。町は綺麗だし、変な人もいないよ」

路上にうずくまる女性と、フードコートで話しかけてきた男性

13時間飛行機に乗ってスウェーデンに到着。ノーベル賞の授賞式が行われている市庁舎を見学、そして湖を走る遊覧船に乗ることになった。

その船の乗り場に向かって、駅のコンビニで買った炭酸水を飲みながら大通りを歩いていく。タンクトップを着てサングラスをかけている人たちとすれ違った。
ふと大通りとつながっている細い路地が目に止まった。全身黒の服を見にまとい髪と顔をベールで隠している女性が路上にうずくまっていた。すぐ横に小鉢と小さなパン。
連日、ニュースでは武装したイスラム国の人々が映し出されていた。彼女のように黒いベールをかぶった人々も。彼女はもしかしたらイスラム国から逃げてきた難民かもしれない。
船の上から『長くつ下のピッピ』の家が見えていた。昔何回も読んだ大好きな作品だ。目にはピッピの家が映っているのに、頭では彼女のことを考えていた。

2日目は有名な図書館を観光した。地下鉄に乗ってホテルに向かう。
町の中心地にあるモダンなホテル。夕飯は駅の中に入っているフードコートで食べることになった。
私と父はフィッシュアンドチップスを、母はローストビーフを注文。まったく揚げ物とは不思議なもので、最初の数口は美味しくても食べ進めていくと身体が受け付けなくなってしまうのだ。さらに、日本のレストランで出される量よりはるかに多い。私はすぐお腹いっぱいになり、2割ほど残してしまった。

そこに金髪で高身長のお兄さんが登場。何やら話しかけてくる。パニックになった私は思わず「Yes」と答えた。すると、「Thank you」と言い、私の晩ご飯が乗ったトレーを持ちゴミ箱とかが設置されているトレー返却場所へ。そこで立ったまま私の残りを食べ出した。
呑気な私は「食べてもらえて助かるー。フードロスが減ったー」としか考えていなかった。

何回も一人旅に。その土地の問題を見たいと思うようになった

しかし、母は変な人に話しかけられたのではないか、危険な目にあったらどうするのか、あの人はホームレスではないかと終始機嫌が悪かった。
父としてはスウェーデンの自然の素晴らしさや、エネルギーの活用の仕方を心に留めて欲しかったのだろうけど、私はどうしても路地裏でうずくまっていた女性と駅のフードコートで出会った男性の方が印象に残った。

旅行会社が主催するツアーは、客を危険なところに連れて行けないのだろう。それに現地の人しか知らないような場所を巡るよりも、有名な観光地を巡る旅にした方が客も集まりやすいのだろう。
しかし、私はあのスウェーデンの旅をきっかけに、その土地が抱えている問題を見たいと思うようになった。そして、大学入学後に何回も一人旅に行くようになった。

観光地ももちろん見るけども、現地の人しか歩かないような場所を現地の人のフリをしながら歩く。

初めて食事に行く男性との会話の定番は趣味の話だろう。私が「趣味は一人旅です」と言うと「僕も一緒に行きたい」と言う人がいる。趣味を邪魔されたくない私は、その時かなりイラッとする。
一緒に旅に出る人を危険な目にあわせられない。彼らを置いて私は今日も路地裏にうずくまる女性に会いに行く。