商品は私の子ども。でもすくすく育つのは一握り

子どもを産んで育てるのが、私の仕事である。というのはあくまで比喩であって、私の仕事はマーケッター、兼、商品企画。そして販促企画。商品を考えて企画して、更には売るための方法を考えるのが、私の仕事である。

常に「楽したい」「非課税で5千兆円ほしい」などと考えている私であり、商品企画をしたいなんて思ったことは一度もない。しかし就活のときに、「こんなに新しい商品を次々作っていますが、どうやってこんなにアイデアを出しているんですか?」と訊いたことがある。その時点で、生まれながらの商品企画だったのかもしれない。

まあとにかく、私は毎週のように子どもを産んでいるのだが、産んだからといってすくすく育つのはほんの一握りだ。魚が成魚になるのと同じくらいの割合かもしれない。自分の子どもがうまく育たないのは、悲しい。けれど同僚の一人は「別に気にしない」と言っていた。
「どうして?」
「まあ、売るのは営業だし」

ずいぶんと冷静な発言だ。まあその通りといえばその通りである。
「逆にすだれはどうなの」
「私は私の作った商品が大好きだから、絶対に売ってやる!って思うね」
「アツいね」
そうなのだ。
気づいたら私は、ものづくりにアツい人間になってしまったのだ。……思い当たる節が一つある。
きっかけは、とある出来事からだった。

廃番になった防災セット。ごめんね、と心で謝った

当時私は防災用品の担当をしていた。古くさいラインナップから、小洒落て充実したセットにフルリニューアルした。営業や得意先からの評判は上々。「我ながら良い子を産んだ!」心からそう思っていた。
しかし半年後。
「すだれの作ったセット、全部廃番にするから」

上司のその言葉に、私は耳が壊れたのかと思い首をひねったが、上司にはもう一度、
「すだれの作ったセット、全部廃番にするから」
と繰り返された。
「なんでですか。皆『良い商品だ』って言っていたじゃないですか。売上だった悪くないですよ」
「セットの中身の一部、仕入を変更しなきゃいけないんだよ」

そう言われ、仕方がないと渋々頷いた。これは仕事なのだ。自分が納得すればいいのではなく、できるだけ多くの人間が納得して、その前にまず、会社が得をしなければいけないのだ。これは、趣味ではない。ビジネスだ。

自分が産んだ子を半年足らずで殺すのは、寂しくてしょうがなかった。資材だってまだ残っている。ごめんね、ごめんねと心の中で謝った。謝った相手はモノではなく、そのモノを必死に作っていた、その時の自分に対してだったのかもしれない。
そして思ったのだ。
誰もが納得する商品を作って、誰もが納得する売上を作り、自分の子どもの顔を誰よりも広めると。

もう子どもを「殺したくない」。誰より愛し続けたい

「すだれってほんと、ウチの商品好きだよね」
とある業務中のこと。同僚に言われ、「そりゃそうでしょ」と返事をした。
「だって私が本気で考えて、本当に使ってほしいと思った商品だよ。嫌いになれるわけがない」
「私は自分の作った商品を『もう見たくない!』と思うときもよくあるよ。そういうことは思わないの?」
「なくもない、かな。けどやっぱり愛おしくなる」
「なにそれ。面白い」
「だってもう、私の子どもを殺したくないからね」
「ハハ。それ、分かるよ」
 そうなのだ。皆なんだかんだ、自分の作った商品の親なのだ。
「私がこの子の力を信じてあげなくてどうするの。って思うんだよね」
「やっぱりすだれ、アツいね」
「そうかなあ」

私はこの仕事が天職だとは思わない。天職だと思うには、今までやった仕事の種類が少なすぎる。
けれどこの仕事を、子どもを……商品を作るこの仕事を、誰よりも愛し続けたい。これからも。