私には、星へ還った推しがいる。
突然この世をあばよと去った、“死”という言葉が不似合いな推しは、私のたった1人のヒーローだった。ヒーローだけはどんなことがあっても倒れるもんか、いつまでもこの場所で私を救ってくれるんだ、当たり前のようにそう思っていた。そんなヒーローは、あっけなく星へ還っていった。
どこの会場に行っても、どのSNSをひらいても、もう二度と会えなくなってしまった推しに、もう一度だけでいいから会って伝えたいことがある。

生きることをやめかけていた私は、ある夜テレビで推しと出会った

私が推しと出会ったのは、多感で爆発してしまいそうな高校時代。クラスメイトからの嫌がらせ、人間関係に嫌気がさして、生きることをやめかけていた。まるで世界は、このちっぽけな教室が全てのように思えた。
それならすぐにでも、この世界からいなくなってしまいたかった。貧弱な精神を抱えながら見上げた星空には、いつも明日が控えている。絶望の明日に押し潰されて、眠れない夜を毎晩のように過ごしていた。

そんなある夜、テレビの中で、推しを見た。推しは、人に裏切られても、どんな嫌がらせを受けても、1人でじっと耐え、夢のためにまっすぐ生きる主人公を演じていた。自分と似た境遇で戦う推しの姿に魅了され、その揺るがない熱い眼差しに胸を打たれた。
それから私は推しを知るため、推しの出演する舞台へ行き、イベントに参加し、番組や配信は欠かさずチェックした。
推しは本当に面白い人で、サプライズという言葉がぴったりだった。その日その時その瞬間、出会った一人一人のことを、喜ばせようと、笑わせようと、幸せを広げようと、一生懸命に手を尽くすかっこいい人だった。

私に生きることを教えてくれた推しは、私の「ヒーロー」だった

私はただひたすら推しのために生きた。この世界はまだ、捨てたもんじゃない、この世界でならまだ、笑うことができる。推しは私に、生きることを教えてくれた。
推しには夢ももらった。推しが私のヒーローのように、私も誰かのヒーローになりたい。推しに救われた命を、誰かのために使いたい。イベントで推しにそう伝えると、推しは私に活動していく上での名前を与えてくれた。ヒーローからもらった名前をもって、夢に向かって生きていくと決意した。

それからたったの数ヶ月後、ついこの前いたずらな笑顔を傾けて、私に名前をくれた推しが、突然星へ還っていった。推しと出会って8年。次の舞台が控える矢先のことだった。

推しとのかけがえのない思い出が、私を生かし続けている

推し、私のヒーローへ。
私の朽ち果てた日々を、夏の輝くひまわり畑に変えてくれたあなたに、もう一度会って伝えたい。あなたがいない世界は、大きく姿を変えてしまいました。怖気づくことばかり、立ち向かえないことばかり、こんな時あなたがいてくれたらいいのにと、何度泣きじゃくったことでしょう。
けれど私は、あの貧弱だった私は、それでもこの世界で生きています。あの頃の楽しかったこと、心躍ったこと、嬉しかったこと、笑ったこと、憧れたこと、この全ての時間が、今も私を突き動かしてくれる。あの全ての瞬間が、今も私を生かし続けてくれるんです。
あなたのちゃっかりな笑顔が、私の大きな行動力となり、あなたのたった一言が、私の永遠の希望になったのです。あなたからもらった夢と名前とこの命、あなたからもらったたくさんの大切を両手いっぱいに抱えて、あなたのようなヒーローになれるように、今日も私は生きていきます。

私をこの世界に生かしてくれて、この世界のことを、生きることを、大好きにさせてくれて、ありがとう。私の大好きなヒーローでいてくれて、ありがとう。
私は今日も、星空を見上げる。ヒーローが還った星の行方を探している。そこには明日が控えている。輝く明日だ。尊い明日だ。
推しはこの星空のどこかで、明日も私を救ってくれる。推しは私の、生涯のヒーローだ。