私は高校を一年で中退している。
なぜ退学したのかなんて聞かれたら、「精神的にも身体的にも限界だった」ということしか答えられない。なぜ精神的に限界だったのか、身体的に限界ってどういうことなのかなんて聞かれてもわからない。
学校に行きたかった気はするし、行きたくなかった気もする。いじめられてたとかそういうことではなかった。急に学校に行けなくなった。
学校が近づくと突然動かなくなった足。どんどん体調も悪くなっていった
私は高校受験を失敗して私立の高校に入学した(都会では私立の方が頭いいと聞いたことがあるが、私の住んでいる田舎では私立は金持ちか部活で推薦をもらった子、受験失敗か頭が悪いかで行く高校がない子たちが行くところだと言われている)。
行きたい高校ではなかったが、それなりに楽しんで最初は通っていたと思う。それなりに友達を作って、それなりに勉強して、普通の高校生活を送っていた。
でも、ある日急に学校の近くの交差点から足が動かなくなった。怪我をしているわけでも、遅刻していて気まずいわけでもなかった。自転車のペダルを下に踏むだけの難しくない動作なのにできなかった。
その日は二限遅刻して行くことができたが、学校にいけない日が増えていった。前日から授業の準備をして、朝時間通りに起きて家を出る。学校に行く気満々で家を出ても、いつも途中で足が動かなくなった。学校に行くために家を出たはずなのに、いつの間にか家の近くの公園や自分の部屋で横になっていることもあった。
授業出席日数が足りなくなっていくこと、学校に行かなくちゃという気持ちと何をしても動かない体のギャップに焦り、気がつくと泣いていることが多くなっていた。
体調もどんどん悪くなっていき、ベットから起き上がれなくなった。トイレとお風呂の時だけ起き上がり、それ以外の時間はひたすらに眠って過ごしていた。寝ても寝ても眠くて一日中寝ていた。
塞ぎこんでいたある夜、カーテンの隙間から見えた星空が綺麗で…
母からは毎日朝晩と怒られ、兄からは目が会うたびに罵倒された。自分でもなぜこうなっているのかわからず、どんどんと塞ぎ込んでいった。
夜中にカーテンの隙間から綺麗な星空が見えた時があった。
もともと天体が好きで、天体観測をよくしていた。高校に入ってからはしていなかったが、なんとなく外に出た。真冬にパジャマに上着を着て、近くの堤防にまで行った。
たまたま天候の条件が良かったのか、久しぶりに見たからなのかわからないが、今まで見た中で一番綺麗だと思った。流れ星があったとか新月で星がよく見えたとかではなかった。でも今まで見たどんな星空より綺麗だと思った。
それと同時に学校に行けないと、体と気持ちのギャップに焦っていたことが、悩んでいたことがどうでもよく感じた。
学校をやめよう、と思った。
こんなに悩むなら、きついと思うならやめようと思った。
親になんて言おうかとか、これからの進路とか、就職どうしようとか後のこともこれから先のことも何も考えず、ただやめようと思った。
あの時、星を見に外に出ていなかったら学校をやめようと思わなかった
親からはめちゃくちゃに怒られたし、親族からは軽蔑するような目で見られるようになった。
でも、高校をやめたことに私は後悔は一切していない。あの時星を見に外に出ていなかったら、学校をやめようなんて思っていなかったら、多分今頃死んでたんだろうなと思うから。
今でも悩んだり、何かに限界を感じると星を見に外に出る。ディズニーやお伽話の世界ではないが、なんとなくこれから向かうべき方向を教えてくれるような気がして、夜にこっそり家をでて星を見に行く。
高校退学後、私はカメラを買った。あの時みたような綺麗な星空を撮りたいと思ったからだ。
まだまだカメラの修行中で下手くそだし、あれ以上に綺麗な星空を見ることはできていないが、いつか息を呑むほどの星空をカメラに収め、私のように悩んでいる人や、泣いている人たちの背中をさすってあげられたらいいなと思っている。