「別れようか……」。そう言われてあなたと別れてから、もうかれこれ4、5年になるだろうか。
あれ以来、あなたとは一度も会っていないし、今さら会いたいとも思わない。万が一どこかで見かけたとしても、きっと知らないふりをするだろう。

円満に付き合っていた私達だけど、いつからか私はもやもやしていた

付き合い始めてから数年間、大きなトラブルもなく、まさしく円満という感じの私達だったが、いつからか、私があなたからの連絡にまともに返事をしなくなり、あまり会おうとしなくなった。
見かねたあなたは、とりあえず話し合おうと私を呼び出して、「他に好きな人ができたとか、なんでもいいから」と、腹を立てたりすることもなく、ただ真摯に理由を尋ねようとした。
だが、あいにくその時の私は明確な理由を持ち合わせていなかった。だから答えようもなく、ただ手元のコーヒーカップの縁を見つめることしかできなかった。

自分でも何と言えばいいのか分からなかった。あの時のことをふと思い出すたびに、もやもやした。何か思うところはあったはずだが、ぼんやりして捉えようがなかった。
それがなぜか今頃になって、輪郭を帯びてきたような気がする。なので、もう会うことはないだろうけれど、ただの独り言としてここにしたためておこうと思う。

わがままを聞いてくれて、ご飯もおごってくれたあなた

振り返ってみても、あなたはすごくいい彼氏だったんだろうと思う。いつでも「もっと甘えていいよ、わがまま言っていいよ」と言ってくれたし、私がバイトで帰りが遅くなる時にはご飯を作ってくれた。
「好き」とか「かわいい」とか、愛情表現もまめにするタイプで、そういうことをストレートに表現することが苦手だった私は、心底申し訳なくなるぐらいだった。
イベントやお祝い事もちゃんとやるし、デートも飽きないように色々と考えていた。私がそういうことに無頓着で、大したリアクションができなかったとしても。

そして、一緒にご飯を食べに行く時はいつでも、全部あなたのおごりだった。個人的に「男が女におごる」という考え方にどうも馴染めなかった私は、折を見て「自分で出す」と言ってみたが、あなたは一銭も出させなかった。
「自分で払うから、そんな全部おごらなくていい。これからはそうしよう」。そう言っても、「なんで?」と聞かれた。
なぜ自分の食べた分を自分で払うことに理由を求められるのかよく分からなかったが、こんなことでいちいち揉める方が面倒なので、大人しくおごられることにした。

あなたは、「いわゆる女の子」がきっと喜びそうなことを色々してくれた。そういう意味で、「いい彼氏」だったと思う。
でも、違うんだ。「いわゆる女の子」なんてただのイメージであって、そんなものは現実には存在しない。
みんな一人一人その人自身を生きている。性別関係なく。それだけだ。「いわゆる」に近かったり遠かったりは色々あるにせよ、現実に存在するのは、その一人一人でしかない。

あなたの横にいるのは私じゃなくていいし、たぶん私じゃない方がいい

あなたは、私という人間と付き合っていたのだろうか。私を通して、「いわゆる女の子」ってやつと付き合っていたんじゃないか。なんだかそんな感じがしてしまった。
「いわゆる女の子」ごっこをするのは御免だ。あなたの横にいるのは私じゃなくていいし、たぶん私じゃない方がいい。
あなたのことは「いい彼氏」だとは思えたけれど、それはあくまで「いわゆる」の話であって、目の前にいた私にとっての話じゃない。きっと、そんな気持ちが、あの時、もやのように私の心に漂っていた。

あまりにぼんやりした気持ちだったから、結局私は何も言えず、あなたから切り出してもらう形で別れることになった。後になって共通の友人から聞いた話では、気の弱い私が別れようと言い出せないと思って、あなたの方から言ってあげたのだとか。
「新しい彼氏ができるといいね」。私にそう告げて去って行ったあなたは、最後まで「いい彼氏」だった。
でも、私はそんなこと1ミリも望んでいなかった。結局そういうことなんだ。