両親の離婚。家族という存在の脆さに、涙が止まらなかった

冬の風が少し春の陽気をまとい始めた夜、夕食の片付けをしていたタイミングで玄関のチャイムが鳴った。
父だった。
実家は車で20分程のところにある為、私が実家に帰ることはちょくちょくあるのだが、父親が自ら訪ねてくることはとても珍しい。
部屋に入り、床に座り込み、改まった様子で父は「お母さんと離婚しようと思うんだ」と言った。

あまり驚かなかった。もう何年も前から母は不倫をしていたし、お金の管理の仕方や母の色々な行動に不満が溜まっていたのは父だけではない。「そっか、仕方ないね。でも良かったよ、やっと決断できたんだ」と私は父に向かって言った。
それは本心だった。社会人3年目になり、親の手から離れた今、2人が別れた事で私の生活が大きく変わる訳ではない。それに、私にはどうしようもないことだった。

何とも思ってないかのように話していたけれど、父が玄関の扉を閉めた瞬間、涙が止まらなかった。家族、という存在がとても脆いものに思えた。
その夜、どうしてもひとりでいることが出来ず、彼氏の家へ向かった。
寝る前のベッドの上でその夜、父から告げられたことや家族の話をした。彼は一緒に泣きながら、私を強く抱きしめた。寝る時も手を離そうとしなかった。
一緒に居てくれてありがとう、と眠りにつく前ぼんやりと思った。ひとりじゃなくて良かった、と思った。

結婚は一つの選択肢。ひとりでいる時間も肯定して生きていたい

付き合って2年近くになる彼氏がいると、周りから「結婚しないの?」なんて言葉をかけられることも多くなってくる。結婚適齢期、と呼ばれる年齢を迎えて、周りも続々と結婚し始めた。インスタで流れてくる「婚約しました」とか「子供が産まれました」とかいう投稿も日に日に増えている気がする。

あまりにも露骨に、年齢という現実が自分自身にのしかかってくる。30歳までに結婚しなければいけない、という社会の暗黙のルールのようなものに則れば、私もそろそろ結婚について考えなければいけない年齢だろう。
ひとりで生きていく、と決めている訳ではない。いつか自分も誰か大切な人と結婚し、子どもを産む日が来るかもしれない。けれど、結婚は長い人生の中のひとつの選択肢だ。それは義務ではない。

今の彼氏と付き合っている中で、結婚、というワードが2人の間で出たことはない。私自身、まだ結婚について何も考えられない。両親の姿を見て、結婚に対してあまりいいイメージがないことは確かだが、それ以上に今はひとりでいることがとても楽しい。
夜遅くまで飲み歩くことも、思い立って近所のカフェにコーヒーを買いに行くことも、全て自分の意志で出来る。仕事が終わり、疲れて家に帰り、そのまま寝落ちしてしまう日がある。けれど深夜、メイクを落とさず寝てしまったことに気づいた時の絶望感さえ、今は楽しんでいるのだ。
同棲や結婚をすれば、全ての行動を自分ひとりの意思で決める訳にはいかなくなる。だから私は、今の生活を一生懸命肯定しながら過ごしている。これでいいのだ、と怠惰な部分まで肯定して、今しか過ごせないこの日々を全力で楽しむのだ。

眠れない夜があっても平気。ひとりの楽しさも切なさも知っているから 

とはいえ、将来についての不安はたくさんある。
このまま彼氏と付き合っていって良いのだろうか。今の会社から転職するべきだろうか。貯金はどのくらいしていたらいいのだろうか。周りと比べ、焦ったり悩んだりする日も多い。
20代後半という変化の多い年齢を迎え、自分のライフプランを見つめ直す日々が増えた。能天気に楽しく過ごしているつもりでも、心のどこかで小さな悩みが募っていって、なんとなく眠れない夜もある。
もちろん、これから年齢を重ねるにあたって辛いこともあるだろう。けれど、私なら大丈夫。今の私はひとりで過ごす楽しさも、ひとりでは生きていけない日があることも知っているから。