ふられた理由は「なんとなく」だった。
クラスメイトだった彼はいわゆるさらさらヘアのサッカー少年、女子人気は高かった。最初は席が隣で大嫌いだった。それは、シャイだとみんなに言われていた少年がやたらとちょっかいをかけてきて、鬱陶しいからだ。
でも、いつからか私が苦手な教科を教えてくれるようになり好きになった。今思えば私の「好き」は顔に出ていた。少年が「分からないの?」と肩が当たるくらいの距離に寄れば、私の頬はりんごくらい赤くなっていた。しかし、それに負けず少年の耳も赤かった。

そう、いわゆる「両思い」ってやつだった。そこからどうこうしようとは思わなかった。一番仲のいいクラスメイトで私の胸はときめきでいっぱいだった。

女子とはメアド交換しない。彼から手渡された、一枚の特別な紙切れ

卒業を迎えて中学に入ると、少年はクラスメイトじゃなくなってしまった。
ある日、少年が携帯を手に入れたという情報を手に入れた。私は既に携帯を持っていたので、連絡先を入手できるかもとタイミングを見計らっていた。隣のクラスを覗いてみると、少年が「女子とはメアド交換しない」と話しているのを小耳に挟んだ。

ショックで靴箱までとぼとぼ歩いていた。すると、後ろからは走ってきた少年が「ん」と紙を差し出す。私は訳が分からないまま受け取り、帰り道にひとりで見ると連絡先が。「あれ?いいのかな?私って女子じゃなかったかしら」とパニックになる。

家に着き、深呼吸をして電話をかけようか、かけまいか悩んでいた。すると、インターホンのチャイムが鳴った。こんな大事な時に誰だと顔をしかめながら画面を覗くと、少年が立っていた。
髪を整えて、スカートのしわを伸ばして玄関を開ける。「番号間違っていたかもって思って」と少年は赤い耳を押えて言った。「そっか。ありがとう」と無事に連絡先を入手した。

いつの間にか散ってしまった。13歳の私の、幼い初恋

それからは、想像通りの展開。好きな人あてっこメールゲームだ。少年から自分の名前が送られてきた。布団の中でにやつきが止まらない。
そして、少年と私は「付き合う」意味が分からないまま付き合うことになった。シャイな少年の希望により内緒で。他愛もないメールだけで楽しかった。

3ヶ月経つ頃には、少年から返信がくることはなかった。すれ違っても目も合わなくなった。きっと、‘‘彼氏‘‘ではなくなったのだろうな。好きじゃなくなったらメールくれたらいいのに。
それでも、13歳の私は好きだった。

隣のクラスの友達に教科書を借りに行くと「‘‘付き合ってた‘‘ってことは別れたの?どうして?」と知らない女の子の質問に「なんとなく」と聞き覚えのある声に気が付く。女の子はこちらをみて少し笑っている。私は苦笑いをして自分の教室に戻った。

そうだ、メールが来なくなって分かっていた。もう‘‘彼氏‘‘じゃないこと、なのにどこかで期待していた。目も合わないし、嫌われてしまったんだ。シャイだけどたくさん話が出来るクラスメイトのままがよかった。

こうして私の幼い初恋は儚く散ってしまった。

「なんとなく」でふられたけれど、私、前に進んでたんだ

あれから10年程度が経ち私たちは同窓会で再会した。
少年から男性になった彼と私はドライブに連れて行ってもらう。なんのつもりだろう、今更。彼氏にばれたら怒られるかなと思いながら助手席に座った。

思い出話をしていると、急に「ごめん。急に返信しなくなって…。恥ずかしくて」と彼が言う。「いいの、いいの。でも、嫌いになったのかなって」と少し意地悪をしようとしたら、私の言葉を遮るように「違う。ごめん、ちゃんと好きだった」と耳が赤い彼は言った。

私の心はざわついた。どんな顔をしてるのだとバックミラーに映る自分を覗いてみた。あれ。自分の頬が赤くない。あ、私「なんとなく」でふられて前に進むことが出来ていた。
あの心のざわつきは10年前の答え合わせのせいだったのか。私も幼かったけど、ちゃんと好きだった。でも、言ってあげない。私は彼氏の元に帰るね。