地元に戻って切実に感じる「ひとりになりたい」。そんなときは海へ

ひとりになりたい。今は何も考えたくない。
地元に帰ってきて、何度そう思っただろう。家族や地元の人の温かさや優しさに助けられることも多かった反面、やはりひとりの時間も必要だと知った。
普段あれこれ考え事ばかりすることにも疲れた。何も考えず、誰とも話さなくていい時間が無性に欲しくなる。
そんなときは車を走らせ、海へ。目的地までは、宇多田ヒカルと椎名林檎の「二時間だけのバカンス」をかけながらドライブするのが最近の定番。

波の音を聞いたり、風を感じたりする時間は至福だ。のどかな自然を感じながら、少しの間だけ逃避行。海辺に座り、ただぼーっと景色を眺める。リセットするために来てるから、考え事なんてしない。頭を空っぽにして、心地よさだけを感じながら過ごす。
そうやって時間を過ごした後はスマホを取り出す。いつもは無意識に開いてしまうSNSも、この時間だけは気にならない。

音楽を聴きながら、深呼吸。身も心も軽くなる

真っ先に開くのはApple Music。波の音とバランスが取れる音量で、平原綾香の歌う「いのちの名前」を流す。彼女の透きとおるような歌声と、なぜか懐かしくて泣いてしまいそうなピアノの音。これに波の音や風、潮の香り、鳥の鳴き声といったエッセンスが加わると最高。
この歌には「胸で浅く息をしてた」という歌詞がある。その歌詞が流れると、いつも深く鼻から息を吸うようにしている。潮の匂いがする新鮮でスーッとした空気をめいっぱい肺に入れ、口からは二酸化炭素を吐き切る。

この瞬間、今までの自分の呼吸の浅さに驚く。最近、胸がわずかに動くだけの無意識的な呼吸しかしていなかったな、と毎回気付かされるのだ。
呼吸が浅いせいで、身体の内側に澱んだ気持ちが溜まっていくのだろう。深呼吸した後は身も心も軽くなった。

次はメモとペンを取り出し、思い浮かぶことを書き留める

深呼吸をして身体と気持ちを整えた後は、バッグからメモ帳とペンを取り出す。今度は音楽を止め、自分の五感から得たありとあらゆる情報をただひたすらメモ帳に書きとめるプロセスに入る。
自分が普段の生活で見過ごしてしまいそうなもの、気にも留めなかったこと、些細なことを発見するための時間。海の青さ、背中に当たる陽の光の暖かさ、聞こえてくる鳥の会話、足裏に感じるひんやりとした砂の気持ちよさなど、とにかく感じたものを感じたままに書いていく。これが役に立つのかは私自身わからない。でも、その日がどういう日だったのか、何を見たのか、何を感じたのか、観察し記録することがなんだか楽しい。
そうやって思う存分過ごしたら、また車に乗り込み、日常へと戻る。

うんと贅沢するわけでも、思いっきりはしゃいだりするわけでもない。はたから見れば地味な過ごし方だが、これが私なりのひとりの楽しみ方だ。
無心になること、深く呼吸をすること、自然を観察すること......。普段余裕がなくて、ついなおざりにしてしまいがちなことを取り戻すための、二時間だけのバカンス。