アイドルブームに乗り遅れていたけれど。一瞬で心を奪われた「ぐみちゃん」

高校2年生、空前のアイドルブーム。テレビではアイドルの総選挙が放送され、学校ではクラスメイトがアイドルのトランプでババ抜きをしていた。ジョーカーではなく、「推しメン」が手札になると盛り上がるのだ。可愛いとは思うけれど、私はアイドルの顔と名前を一致させることができず、流行にはやや乗り遅れていた。

大学1年生、友達に教えられ、とあるアイドルのミュージックビデオを興味本位で観てみた。歌っているのは、セリフのような歌詞を早口で歌う、いわゆる「電波ソング」であった。聴いているとその早いテンポにワクワクして、何回も再生した。気づくと口ずさんでいることもあった。アイドルにはあまり興味がなかったが、ちょっとだけ良さが分かった気がした。それからはたまにライブに行ったり、CDを買ったりした。

大学2年生、いつものように何となくツイッターを見ていると、金髪でタレ目、今時だけどちょっと童顔な女の子の写真が流れてきた。興味のあったアイドルを何人かフォローしていたのだが、それらと関連性があって表示されたようだった。
その女の子が、まあ、ビックリするほど可愛い！名前は「ぐみちゃん」というらしい。すぐに「フォローする」をタップした。その私好みな顔立ちに惹かれ、「ぐみちゃん」のツイートをたくさんスクロールした。どうやら、秋葉原のライブも楽しめるバー（メイドカフェのようなところ）で働いてることが分かった。
どうしても一目、「ぐみちゃん」に会いたくて、中学の友達を誘って、ドキドキしながら未知なる秋葉原のバーに入り込んだ。席に着くと、早速「ぐみちゃん」を見つけた。いつもスマホの画面からしか見たことがなかった、可愛い女の子がすぐそこにいるのだ！思っているよりもずっと顔が小さくて華奢だった。
圧倒的な可愛さに緊張して、「ツイッターでいつも見てて、あっ、あのっ、可愛いですね！」と言うことが精一杯だった。その時お店にいた優しいぐみちゃんファンの方と友達のおかげでどうにか自分の名前と、ぐみちゃんの誕生日の話ができた。

ぐみちゃんに沼落ちして、私の人生は格段に濃い日々に変わった

全然上手く話せなかった自分を悔いて、数日後ぐみちゃんに会いにまたお店に行った。リベンジである。結局同じように緊張して席に座ると、ぐみちゃんは私を見つけるなり、「また来てくれたんだね」と言ってくれた。たくさんのお客さんが来ているのに、私のことを覚えていてくれたのが嬉しくてたまらなかった。「えっ、覚えていてくれて嬉しい！」と言ったら、ビックリしたような顔をして「覚えてるよ〜！」と、さも当たり前かのように言われた。それが衝撃で、私は完全に恋に落ちてしまった。私は恋に落ちたと思っていたけれど、友達に言わせると「沼に落ちていた」らしい。

それからの毎日は、ぐみちゃんが出勤と聞けば、できる限り都合をつけて会いに行った。彼女はアイドルグループにも所属していて、そのライブにもたくさん行った。大学卒業後は、東京を離れて地元に就職したが、休みをとって都内のイベントに行った。もちろん、チケット代、グッズ代、交通費と、かなりお金を使った。時間も使った。
その代わり、次の日曜はぐみちゃんに会いに行けると思えば、勉強も仕事も頑張れた。アイドルを好きにならなかったら出会わなかったであろう友達もできた。会社の人に「アイドル好きの浅野さんだよね！」と、肩書き付きで名前を覚えてもらえることが多かった。新入社員にとって、一つでも特徴を覚えてもらえることは嬉しかった。ついには、ライブで知り合った男性と付き合うことになり、結婚までした。つまり、ぐみちゃんは、私の元気の源であり、名刺であり、恋のキューピッドでもあるのだ。

彼女を知らなかったら、いわゆるアイドルオタク人生は歩んでいなかったと思う。あんなにライブに行っていなかったら、もう少し貯金があったかもしれない。でも天使のようなアイドル、ぐみちゃんに会えて、私の人生は格段に濃いものになった。
知りたくなかったけど、知れてよかった「ぐみちゃん」のこと。