上手くいっていると思っていた彼。ある日のデートで暗い顔をしていた

「知らなければ幸せだったのに」
こう思うことはないだろうか。
私にも経験がある。それは突然、当時付き合っていた彼との間で起こった。
私は21歳で、彼は23歳。私にとっては初めての彼氏だった。お互いに気が合い、価値観や食の好みも似ていて、家族構成も一緒。2年間交際していたけれど、喧嘩はしたことがなく、必要なときにはとことん話し合ったり意見をすり合わせたりして絆を深めてきた。周囲からも仲が良いと太鼓判を押されるほど交際は順調で、彼と私は上手くいっていると勝手に思っていた。

しかし、ある日のデートで待ち合わせ場所に現れた彼は、どこか暗い顔をしていた。馴染みのカフェで話していても、浮かない表情で何か言いたげに見えた。
いつも明るい彼が深刻そうな表情をしているのはよほどのことだと思い、思い切って私は尋ねたのだ。
「どうしたの?何かあった?」
もしかしたら、会社で何かあって悩んでいるのかもしれない。落ち込むようなひどいことを言われて傷ついているのかも……。
普段は明るく男らしい彼だけど、実は繊細で優しい人なのだ。私は彼のそういうところが大好きだった。いつものように、困ったり悩んだりしているときは彼の力になりたい。彼が私にそうしてくれるように。そんな気持ちで返事を待っていたら、衝撃的な言葉が告げられた。

罪悪感からの浮気の告白。非難する言葉が次々浮かんだけれど

「ごめん……浮気した」
俯きがちで呟いたその様子は、とても冗談を言っているようには思えない。
嘘でしょ?冗談だよね?またいつもみたいにからかってるだけなんでしょ?
頭の中で問いかけまくるけれど、口には出てこなかった。ただ何も言えず、私はしばらく呆然として彼を見つめていた。
「何でしちゃったの?」
かろうじて言うと、彼はとても申し訳なさそうに話してくれた。

つい出来心でしてしまったこと、罪悪感に耐えきれなくなって今日私に話さなければならないと思っていたこと、私のことは好きで、これからも付き合いたいと思っていること。

出来心って何?好きなのに何で浮気したの?愛してると言ったのは嘘だったの?今ここで話された方の身にもなってよ!
頭の中で散々彼を非難したけれど、それは口をついて出てこなかった。彼を愛していたからだ。彼を非難する言葉と同時に頭の中に浮かんだのは「私にも悪いところがあったんだ」という自責の念だった。

そういえば、最近は彼と会う時間をあまりつくれていなかったし、付き合った頃に比べて彼を労ることも少なくなってきた。私が悪いんだ。だから彼はよそ見をした。私では補えない何かを求めて。その後のことはよく覚えていない。何を話したかさえも。

やり直そうと努力したけれど、彼を信じられなくなってしまった

彼とは、その後しばらく付き合っていた。私はもう一度やり直そうと努力したし、彼も関係修復のために頑張ってくれていたと思う。

しかし、彼が「浮気した」という事実は二人の間から消えることはなかった。
彼に会えない日が続くと、誰かに会っているんじゃないかと勘繰ったり、優しくされてもうがった捉え方をしてしまったりする自分がいる。私はそんな自分がだんだん嫌になっていった。
彼のことは人として好きだし、出来心でしてしまったんだろうということも何となくわかる。それなりに長く付き合い話し合ってきた仲なのだ。

でも、なぜそれを私に言ったの?知らなければ、心の中にしまっておいてくれさえすれば、私はこんなに苦しい思いをしなくてすんだ。あなたを疑わずにすんだし、自分のことも嫌にならずにすんだ。
彼を愛する気持ちより「裏切られた」という思いが日に日に大きくなり、とうとう私は彼を信じられなくなってしまった。そして、結局その彼とは別れてしまい、私たちは関係を修復することができなかった。

世の中に「知らなくていいこと」があるというのは本当かもしれない。どんなに親しい間柄でも、知ってしまえば深く傷つくこともある。
私は彼の浮気を知りたくなかった。
この経験を通して、私は「恋人に裏切られた痛み」を感じると同時に、「身近な者同士だからこそ胸に秘めておくべきこともあるのではないか」と考えるようになった。