この世界は「愛」が好きだと思う。
愛を歌う音楽、愛を語るドラマ、愛を酒のツマミに友人と語らう日々。

ある人が言った。
「愛は人間の1番の娯楽だ」
確かにそうかもしれない。
友達と話す時、職場で雑談する時、大抵そういう話になる。
だけど私はいつも億劫だった。
社会人になっても彼氏が出来たことがなかった。
恋なら何回かした事はある。
だけどどの恋も愛にはならなかった。

ずっと友達だった彼に告白をされたのは、人生のどん底の時だった

それからずっと私は劣等感に苛まれた。
きっと私は世界中のだれにも愛されないんだ。
きっとどこか欠陥しているから。
毎回、「彼氏ほしいーw」と作り笑いするのもなんだかもう痛々しくて、友達とも会わなくなった。

彼に告白をされたのは、そんな人生のどん底の時だった。
仕事もプライベートも何もかも上手くいかなくて、毎日「自殺 楽 方法」でググって、楽に死ねる方法なんてどこにもいことに絶望して泣き寝入りする、そんな日々に彼は手を差し伸べてきた。
ずっと友達だった彼に告白されても私は信じることが出来なかった。こんなダメダメな私を好きになってくれる人なんて、この世のどこにもいないと本気で思っていた。

彼は私に毎日言った。
「かわいい」「好き」「大好き」
そのうち言わなくなるだろうと思った。
きっとすぐ飽きる。
男の人は手にした魚に餌はやらないと聞いた。
彼女になったら言わなくなるでしょ?
そう思って、付き合って欲しいという彼の真剣な目に目が合わないように頷いた私は、本当に酷い女だった。
でもそうするしかなかった。
確かめたかった。彼の愛を。
本気にして、裏切られたら傷つくのは私なんだから。

それでも彼が私に対してする愛おしそうな目も、撫でてくれる手も、愛の言葉も、付き合ってから何一つ変わらなかった。
それどころかどんどん増えていった。

彼に愛されて居場所を見つけ、私の環境はガラリと変わった

いつの日か彼に弱音を吐いたことがあった。
もう無理そうだ。生きるのに疲れてしまった。誰も私を必要としてくれない。親にも認められない私にはこの世のどこにも居場所なんてない。
そんな重いこと言う女はめんどくさいだろうと思いながらも涙が止まらなかった。

すると彼は真剣な顔をして、
「俺は結じゃないとダメなんだよ。他の誰でもない結じゃないとダメなんだ。生きるのが嫌なら俺が楽しいところに連れてく。クラゲ好きだったでしょ、明日見に行こ」
そう最後にはいつものように愛おしそうな目で私を見つめた。

私は彼に愛されるということを教えてもらった。
誰にも必要とされてない、不良品だと思ってた。どこか私は欠落している。
だからどこにも居場所がないんだ。
私が悪いんだから仕方ないと殻に閉じこもっていた私に、居場所を与えてくれた。

それから私の周りの環境はガラリと変わった。
嫌なことを嫌だと言えるようになった。
周りの機嫌ばかり伺って、自分が我慢すればいいんだとパワハラにヘラヘラしていた自分が、上司を置き去りに定時に帰るようになった。
彼が好きだと言ってくれた私を、おざなりする事が出来なくなったから。
彼が大事にしてくれる私を大事にしないといけないと思ったから。

気がつけば私は笑えるようになっていた。
全部全部彼のおかげだった。
そういうと彼は、
「結が頑張ったんだよ」
と、また頭を撫でてくれた。

彼に何一つ返せなかった私が、最後に返せる愛は「さよなら」を

しばらくして私たちはお別れした。
別れを切り出したのは私だった。
彼には夢があった。
それは地元では出来なくて。
だけど彼そんなこと私には言わなかった。
私のそばにいたいからと第1志望を地元にしていた。
それでも私は知っていた。
以前楽しそうに夢を語っていた彼の夢を、どうしても私は私のせいで壊したくなかった。

「1人になりたいの」
会えば本音が漏れてしまうと電話で切り出した。
電話越しでも彼の動揺は手に取るようにわかって。
彼の驚いた悲しそうな顔が目に浮かぶようで、すぐに訂正したくなった。
それでも私は唇をかみ締め、訂正はしなかった。

彼はそんな私の突拍子もない話を必死に聞いて、話し合おうとしてくれた。
最後には、
「彼氏じゃなくてもいい、結のそばにいたい」
そんな優しい言葉に、私はどれだけこの人に与えられればいいのだろうと涙が溢れた。

それでも。
沢山の愛をくれた彼。
これが何一つ返せなかった私が、最後に返せる愛だと思うから。
新しい場所で、キラキラ輝く貴方の夢を無我夢中で追ってほしい。

貴方のお陰で私はもう自分で自分を大切にできるようになった。
私にとって愛はもう娯楽なんかではなくなっていた。
私が生きる理由になった。
だから、私も貴方に最後くらい愛を返したい。

貴方は貴方を大切にして。
大好きだよ、ずっとずっとありがとう。

さよなら。