ピアスを開けようと思わなかった私が、穴を左右8つ開けた理由

好きな人と何でも同じにしたくって、洋服やアクセサリーをお揃いにするだけでは気が済まず、ピアスの数と位置も同じにした。23歳の秋だった。

もともと私はピアスを開けていない人間だった。雑貨屋さんで見かける素敵なデザインのピアスを「可愛いな」「美しいな」とは思いつつも、ピアス穴を開けようとまでは思わなかった。

そんな私がピアスの穴を左右8つも開けたのは、好きな人ができたからである。その人は、今までに会った人間の中で、最もピアス穴の個数が多い人間だった。
右に5つ、左に3つ。その人工的な美しさに、魅了された。自分の意志を持って、自分の体を改変する。究極に美しい人体改造ではなかろうか。
私はその人の思考や美観に魅せられ、また共感し、共に時を重ねて恋人同士になった23歳の誕生日に、初めてのピアスを開けたのだった。

開けてくれたのは、その恋人である。
私が「ピアス、同じところに開けてみたい」と言ったら、即日喜んでピアッサーを一緒に買いに行って、右の耳たぶと軟骨に開けてくれたのだった。

二度と戻れない痕跡を残してくれた恋人。その時間は幸福だった

つめたい氷で耳たぶを冷やす。恋人がピアッサーを開封する。ひんやりとした針が耳に当たり、恋人の「いくよ」という合図と同時に感じた鋭利な痛みに、悦楽を感じる。
最愛の恋人に、自分の体を改変してもらうという、またとない喜び。二度と戻れない痕跡を残してもらえるという至極の快感。

これが異常なのか正常なのかはわからないけれど、私は確かにそのとき幸福であった。世界でいちばんしあわせだった。
恋人同士とはいえ、他人の躰に穴を開けるという、取り返しのつかないことをしてくれた恋人に、愛を感じた。これこそ至高の愛だと思った。

それから順調にピアスの数が増えてゆき、今私の耳には8つの穴が開いている。自らの望みの通り、恋人と同じ位置と数のピアスができ、とても満足している。
頽廃的な考えかもしれないけれど、今の私にはこれがとてもしあわせなのだ。後悔は無い。

賛否両論あるピアスを開ける選択をしたのは「愛」のためだから

好みのピアスで耳を飾るたび、毎朝心が踊り、また恋人への愛が深まるように思う。
自分を自分で飾り付けることが好きな私に、ピアス集めは絶好の趣味となった。いつもコーディネートを考えるのがとても楽しい。

私にピアスをつける楽しみを教えてくれた恋人には、感謝しかない。きっと、私は今の恋人に出会わなかったら、一生ピアスを開けずに終わったと思う。

ピアスを開けるか否か、賛否両論ある中で、開ける選択をした私を、私は褒め讃えたいと思う。愛のための行動だと思っているから。
そして、私にピアスを開けてくれた恋人にも、変わらぬ愛を抱いている。
どんなに歪んだ価値観だとしても、私は愛のためにピアスを開けた。痛みと愛情はきっと似ている。いつも付き纏って離れないところなど。

私はこれからも、このピアスと恋人と愛を貫き、生きてゆきたい。