彼には「別の彼女」がいた。それからの私は、彼に執着した

「ごめん、嘘ついてた。実は彼女がいる」
大学2年の夏のある夜、大学の正門近くのベンチ。生ぬるい夜風を全身に受けながら、2歳年上の彼から思いもよらぬ言葉を聞いた。
前夜、私は彼に「初めて」を捧げたばかりだった。裂けるような股の痛みさえ愛しく感じながら、彼の「大事な話がある」というメッセージに心躍らせ、指定された場所に喜びいさんで駆け付けた。
なのに、どうして、なぜ。てっきり甘い告白の言葉だと思っていたのに。
悔しさと恥ずかしさと裏切られたことへのショックがないまぜになり、体の底から涙と暴言に変わって飛び出してくる。涙でぐちゃぐちゃの顔をさらしながら、思いつく限りの侮辱を彼にぶちまけた。

彼とは大学のサークル活動で知り合った。身長が高くて、色白で、私のタイプのさっぱり系優顔。お兄ちゃんみたいに頼りがいがあって優しくて、そんな彼に心引かれた。

あの日、飲み会帰りに家の鍵をなくし、部屋に入れなくなった私。とっさに鳴らしたのは彼の携帯だった。
すぐに家に迎え入れてくれた。2人でお酒を飲んで酔いが少し回ったころ、「彼女にしたい」と抱き寄せられて、心臓が飛び跳ねた。初めて好きな人と両思いになれたと思ったのに。

二度と取り返しのつかない「あの日」をかき消すかのように、それからの私は彼に執着した。
一緒にいればいるほど、彼への気持ちが痛いほど腫れあがってくる。顔も知らない彼女に嫉妬し、別れたと聞いては喜んだ。でもその後に新しくできた年下の彼女の存在を知った時は、泣いて電話をかけまくった。
振り向いてくれないのが悔しくて、彼を困惑させたり、怒らせたりしてばかりだった。彼は彼で、そんなめんどくさい私から離れようとしなかった。お互いの感情も、性欲もぶつけあった。他人という線引きを超えて、お互いのことを何でも知っている、何でも言い合える特別な存在になった。
彼は「頼りがいのあるお兄ちゃん」から、「お互いの尻の穴の形まで知っている無敵の親友」に変化していった。

5年続いた「友達以上、恋人未満」の関係。突然告げられた彼からの別れ

そんな「友達以上、恋人未満」の関係を、かれこれ5年は続けただろうか。彼から突然「連絡を取るのをやめにしよう」と絶交を言い渡された。
その時の私は、彼への恋心が落ち着き、同業者が集まる飲み会で知り合った男性といい感じになっていた。彼は私の気持ちに気付いて、背中を押してくれたのだと思う。
でも、私は心底混乱した。泣きながら電話で「このままでいいじゃん」と反論したけれど、彼の固い意志は変わらなかった。「今までありがとう。愛していた」と、本当か嘘か分からないメッセージを残して、まもなく返事が来なくなった。

しばらくの間は毎晩、目が腫れるほど泣き明かした。でもある日、泣きすぎて化粧が取れた不細工な顔を鏡で見たら、なんだか笑いがこみ上げた。その日から涙は不思議と出なくなった。

彼からの「愛」に飢えて、過去の「恋」に溺れた私はもういない

一方的な絶交宣言の1年後、するすると全ての縁が整い、いい感じだった男性は私の夫になった。素朴だけれど、幸せな結婚生活を送っている。

実は今こうして過去を振り返って筆を取ったのには理由がある。今日、突然彼から連絡が来たのだ。
内容は「結婚式にきてくれないか」。外国人の彼女がいて、まもなく一緒に暮らし始めるという近況付きだった。
不思議だった。全然、心が苦しくない。心からどうか幸せになってほしいと願ってやまない。以前なら、嫉妬心と執着心でドロドロした感情であふれかえっていたのに。

「恋は自分の幸せを突き通すこと、愛は相手の幸せを願うこと」という自論に当てはめて言えば、うぬぼれかもしれないけれど、あの時、絶交宣言をしてきた彼は私を愛していたのだと思う。だからこそ、ずるずると続いた関係を絶ちきってくれた。1人になった私は彼という支えを失って、ヨロヨロだったけれども、なんとか自分の足で立ち上がった。

今は夫からの愛で毎日が満たされている。こんな私だからこそ、彼からの結婚宣言も寛容な気持ちで受け入れることができた。彼からの「愛」に飢えて、相手のことも自分自身も不幸にしていた過去の「恋」に溺れた私は、もういない。