私は「青」、妹は「ピンク」。持ち物の色は、いつも決まっていた

「ピンク色」
この言葉を聞くと、何だかちょっと切なくなる。

私には、4つ下の妹がいる。
年の差から、私と妹は、お揃いの物を宛てがわれることが多かった。その時、決まって、私は「青色」妹は「ピンク色」だった。
私の名前と妹の名前は、それぞれ色を連想させる名前で、その色が私は青、妹はピンクだったからだ。
私と妹は、どこに行くにも一緒だった。
その時決まって、「○○ちゃん(妹)はピンク色が良く似合うわね」「○○ちゃん(私)は、女の子らしい色よりも、青とか、パキッとした色の方が良く似合うわね」と声を掛けられた。
私は、本当は、ピンク色や赤色の物が身につけたかった。でも、言えなかった。母や姉が、私たち2人の姿を微笑ましそうに見ている姿を見ると、「私が我慢すればいっか」と思ってしまっていたからだ。

「ピンク色なんか似合わんよ!」妹の言葉がズシッと、刺さった

ある時事件が起きた。
私が、どうしても我慢が出来なくなり、妹のお気に入りのピンク色の髪飾りを、黙って着けて学校に行った。
隠れて返せば、大丈夫だと思っていた。
家に帰ると、妹が泣いていた。お気に入りの髪飾りが無くなっていたからだ。
私が「ごめんなさい」と言って、そっと差し出すと、妹が泣きわめいてこう言った。
「お姉ちゃんはピンク色なんか似合わんよ!!!」
悲しくなった。ズシッと、刺さった。
今までの、私の「ピンク色」に対する憧れに近い感情が、全否定された気がして。
わんわん泣いた。
そこから暫く、妹とは口を聞かなかった。

そんなある日の夜、妹が寝たあと、お母さんが部屋に来て声をかけてきた。
「ちょっと、お茶でも飲もうか」
初めてだった。母とふたりで夜家で話すなんて。
「あの時、なんであんなことしたん?」
暫く、話せなかった。
「話してくれんと、分からんよ」
「……あんな、ほんとはな……」
ゆっくり、ゆっくり話し始めた私の話を、母はしっかり目を見て聴いてくれた。
ひと通り話し終わったあと、母が言った。
「ごめんな」
「○○ちゃんの気持ちもわからんで、勝手に押し付けてごめん」
「でもな、これだけは言うとくわ。人の物とったらいけん。絶対いけん。それは泥棒さんや。ちゃんと謝るんよ」
「うん、わかった」
「お母さんも、○○ちゃんの気持ちはよく分かった。好きな物着ぃ。好きな物持ちぃ」

ピンク色への憧れの反動で、私の名前が嫌いだったけど、今は大好き

次の日、妹に謝った。妹は、あっけらかんとしていた。今も変わらない、彼女の良いところだと思う。
それから、母はお揃いの物を私たちに買わなくなった。代わりに、買い物には私たちを連れ出して、自分で選ばせてくれるようになった。
嬉しかった。
未だに、母は言う。
「○○ちゃん(私)には、沢山我慢させたと思うわ」
違う。そうじゃない。
ただただ私に、一歩踏み出す勇気がなかっただけで、家族は私に、そのきっかけをくれたんだ。
昔は、ピンク色に対する憧れに近い感情の反動で、青色を連想させる私の名前が、嫌いだった。
でも、今は大好きだ。