生ゴミとはいえ「食べ物の一部」だから、コンポストを始めることに

ずっと、キッチンから出る生ゴミをゴミ箱に捨てることに罪悪感があった。
ゴミと呼ばれていても、生ゴミは食べ物の一部で栄養がある。本当に燃やして二酸化炭素と灰にしなければならないのだろうか。

そこで去年、コンポストを始めた。
私のコンポストはベランダに置くバッグ型で、付属の基材と生ゴミを混ぜて置いておくと、微生物の力で生ゴミが堆肥に変わっていく。
キャンプ場や山で時々見かける、水洗でない循環型トイレと同じ仕組みである。

毎晩、その日に台所で出た生ゴミをバッグの中に入れてスコップで混ぜる。
これが数カ月後には畑を潤す堆肥になり、新しい植物を育てるのだと思うと、生ごみを燃えるゴミに出すよりずっと気持ちがよかった。
生ゴミをその日のうちにコンポストバッグに入れてしまうので生臭い臭いが気にならなくなったり、ゴミを出す回数が減ったりと、思わぬメリットもあった。
地球にやさしいことは、人間にもやさしいのだ。

野菜作りをして「農薬が悪」という考えの浅はかさを学ぶことに…

最初の生ゴミ堆肥が完成したのは、去年の春頃。
私は道具を揃え、満を持して数種類の野菜とハーブを育てることにした。

ホームセンターで買った野菜の種はあまりにも小さくて驚いた。
こんな豆粒よりも小さい種から本当に食べられる野菜が育つのか?と半信半疑だったが、蒔いた種は芽を出し、たくましく根を伸ばし、陽の光に向かって葉を広げ、数カ月後には私のベランダに立派な「食べ物」が並んでいた。

自分で生ゴミから作った堆肥で、小さな小さな種から育てた野菜とハーブたちが、収穫してすぐ食卓にのる。
大切に育てた命は食べ物になり、私の身体をつくっていく。
それは素晴らしい気持ちだった。

野菜を育てているうちに、無農薬で食べ物をつくることがどんなに大変かを実感した。
コンポスト堆肥のおいしい匂いを嗅ぎつけて、あらゆる害虫が私のバルコニーにやってくるのだ。

小松菜は少し育つたびにモンシロチョウが卵を生みつけ、私は幼虫の孵化からサナギの羽化までを何度も見届けた。残ったのは茎だけになった無惨な小松菜……。
薬で虫を追い払いたい気持ちがよく分かった瞬間だった。

普段、できるだけオーガニックの野菜を買うように心がけている。農薬は身体に悪いだけでなく、土壌を汚し周りの生態系にも被害を与えたりするから反対だ。
でも家庭菜園の体験を通して、農薬が悪だという考えが浅はかだったことを知った。
農薬があることで野菜の収穫量が守られていて、私達に安定して食べ物が供給されているのだと想像する。
すべての農家に「農薬を使わないでください」と言うのはあまりにも酷だ。

コンポストと家庭菜園が教えてくれたのは、食べ物を作る大変さだった

自分で野菜を育てることで、虫達から野菜を守りたい気持ちも、虫達はただ生きるために野菜を食べているということも、できれば虫食いのないきれいな野菜を収穫して家族に食べてほしいという願いも、同時に知った。

大変な無農薬の栽培を経験し、せめて自分で作り自分で食べる分だけは、頑張って薬を使わずに育てたいと覚悟を持てるようになった。

そして野菜に関わる環境問題は農薬だけではない。
スーパーで購入する野菜には輸送コストがかかっている。畑で収穫されてから、プラスチックの袋に包まれ、排気ガスを出すトラックでスーパーに運ばれている。売れ残った食べ物は大量に廃棄されている。
家庭菜園の輸送コストは、ベランダからキッチンまで。プラスチックや排気ガスのコストを省くことができる。そして食べるときに収穫するので、腐らせて廃棄することもないのだ。

自分で育てた野菜を食べるとき。
堆肥と種から育てた無農薬野菜を、輸送コストをかけずに食べられることを心から誇らしく思う。

コンポストと家庭菜園は、地球に負担をかけずに食べ物を作るということを教えてくれた。
環境問題やゴミ問題が社会課題となっている今、より多くの人が同じような体験をして、やさしい気持ちになってくれたらいいと思う。