カプチーノもカフェラテも、エスプレッソとミルクでできている。でも、カプチーノは泡立てたミルクを注いでいるので、両者は混ざり合わない。
君は、カプチーノが好きだったね。
まさか、私たちの心までもがカプチーノのように混ざり合わなくなるなんて。

私は、男の人が怖かった。上級生に体を触られたり、クラスメイトに急に抱きつかれたりしたからかもしれない。私は、男の人と2人きりになるのを避けて生きてきた。
そして、恋人いない歴=年齢を更新し続けていた。

君となら2人きりでも怖くない、次第に友達以上恋人未満の関係に

大学3年生の秋。初めてできた男友達が大学の同級生だった君だった。君が「この間、講義で隣やったよね」と話しかけてきたのがきっかけだった。
ナンパのような始まりだったけれど、君の優しい雰囲気に、嫌な気持ちはしなかった。
それから、私たちは、2人で話したり遊んだりするようになった。君となら2人きりでも怖くなかった。私たちは、次第に友達以上恋人未満の関係になった。

出会って2年、社会人1年目の冬、君に告白された。
その日、君は、私が出会った誰よりも温かい眼差しで私を見つめていた。帰り際、君は、意を決したように「手、繋いでもええ?」と聞いた。
私が手を出すと、君は私の手を上からそっと包んだ。私は、君が許可を取ってから私に触れてくれたことが嬉しかった。
……当時の私は、君との時間があまりにも穏やかで、君への気持ちに気付いておらず、無惨にも君を振ってしまったのだけれど。

社会人2年目の夏。君への気持ちを確信した私が君に告白し、私たちは付き合うことになった。初めてハグをし、マスク越しでも分かるほど微笑み合った。終電ぎりぎりまで手を繋ぎ、お互いが見えなくなるまで手を振り合った。

初デートの日、過労で倒れた君に送ったメッセージに既読はつかない

恋人としての初デートは、その1か月半後だった。
当日、私は、胸を踊らせながら服を選んでいた。すると、君から過労で倒れてしまったとLINEがきた。その瞬間、私は、心配と不安とどうすれば君のためになるのかが分からないという悲しさで胸が一杯になった。
私は、せめてもの気持ちで、労りの言葉を詰め込んだボイスメッセージを送った。我ながら可愛く撮れたし、気持ちも伝わると思った。
しかし、1週間経っても、10日経っても、メッセージに既読がつくことはなかった。

君の返事を待ち続ける私の毎日は、エスプレッソよりも苦かった。
私は、音信不通になった理由について、あらゆる可能性を考えた。ただ、確かな結論は、何があっても君といたいということだけだった。私は、日々大きくなる君への想いに、毎日のように涙した。
しかし、音信不通から2週間後、君からきたLINEは、はっきりとした理由もなく、別れてほしいと書かれていただけだった。思わず君に電話を掛けたが、軽快な呼び出し音が響くだけだった。深夜2時、私は、部屋で1人、泣き叫んだ。

以前、君と来た場所で、カプチーノを手にひとり待ち続けた

私は、君と別れたくなかった。でも、君を想うからこそ、君の考えを尊重したかった。
ただ、せめて直接、君と一緒にいられた幸せや感謝を伝えたかった。今更気付いた君への想いを伝えたかった。
LINEを送っても未読なので、私は、一方的に日時を告げ、君の住む街を訪れた。以前君と来た場所で、カプチーノを片手に、雨の中、1人、君を待ち続けた。
しかし、君は来なかった。LINEすらこなかった。本当に終わってしまったのだと思い、涙があふれた。
やっと涙が止まったとき、カプチーノはすっかり冷めてしまったようだった。

君と別れた後も、苦い日々は変わらなかった。病院に行くと、うつ状態と診断された。
別れて半年以上経った今でも、君のことを考えると涙がこぼれるし、君への想いに胸が痛くなる。この痛みは、君の存在の大きさの証だと思う。
でも……どうか叶うならば、私の想いを聞いてくれないかな。

君のことが好きでした。
低い声と柔らかい関西弁。穏やかな笑顔。私のフェチにどストライクな腕と手。一緒にいるときの安心感や癒やし。君が自分の短所だと自信なさげに言っていたところでさえ愛おしくて。どんな関係でも、君は大切な存在でした。
君のことを、心から愛しています。

エスプレッソとミルクが混ざり合わなくてもいい。1つのカップの中、お互い優しく寄り添え合えたなら。カプチーノみたいな2人も、きっと、悪くないよね。