決断といえば大げさかもしれないが、私は、高いお金を払って美容室に行く、ということをこれまでしてこなかった。
化粧品とかもそうだが、何でもお金を出せば良いのか?半信半疑なところもあったし、そこまでお金をかけるほどの価値のある人間でもないと思っていた。
1000円カットが10回以上の値段の美容室に行ってみようと決断
20代女子が1000円カットに行っているということ自体が、どうやら世間一般的には珍しいという風潮にさえ気付いたのはここ数年のことであり、それくらい、髪型とかには関心が低かった。
髪を染めることもせず、とにかく、生活する中で、邪魔にならないのが何よりだと思っていた。ある程度伸びたら、ある程度切る、それの繰り返しで、こだわりはほぼ皆無といったところだった。
そんな自分ではあったが、職場の先輩から、 「ここの美容室に行っている」という話を聞き、最初は全く行く気にはならなかった。
そもそも、1000円カットでいえば、10回分以上の値段だし、いやいや、それは高すぎる、と思った。短いなら、そんなに差はなかろう。そんな気持ちから、最初は聞き流していた。
とはいえ、だまされたと思い、行ってみるのも悪くないと少しずつ思うようになった。しかし、それまで1000円カットしか行ったことのない自分が、そんなおしゃれで、しかもかなり人気の美容師さんに切ってもらうなど、もはや身分不相応ではないかと不安になり、予約しようとして、躊躇することをけっこう繰り返した。
しかし、踏み出してみないと何も分からない。自分の中で行くと決断し、予約をした。
技術のことはわからなくても、美容師のみなぎる自信を感じた
若者が多く行き交う街中にある美容室。中に入ってみると、たしかに完成度の高そうなお客さん。なるほどこれは大丈夫かと、今さら緊張してもどうしようもないのに、それなりに緊張した。
担当した人は、どこかとても落ち着いていて、そして私は何か自信のようなものを一瞬で感じた。こんな髪型にしてほしい、というこだわりはないので、詳細はお任せにした。
私には髪を切ることに関する知識がないので、技術のうまいへたはほとんど分からないが、それでも何か違うものを感じた。
何だろうか。やはり一流には一流のオーラがあるということか。そしてその一流に切ってもらっているということが、何か自分の価値まで一瞬にして高めてもらっているような気がして、これはすごいと心の中で思っていたら、あっという間に、私はこれまでに経験したことのないショートカットになっていた。
そのショートカットが自分の中でびっくりするくらい、しっくり来たのはもはや言うまでもないが、それよりも、あの美容師さんのみなぎる自信に圧倒された、というのが、率直な感想だろう。
髪を切りに来たのに、自分に自信を持って仕事をしている人の輝く姿に感動を覚え、私は美容室を後にした。そして「やっぱすごいわ」とつぶやきながら帰った。
お金に対する感情は消え、こんなに感動するとは思わなかった
お金がもったいないとかいう感情はすっかり消え、やはり一流は違う、という、全く予想だにしていなかった感情を自分の中に抱くことになるなど、想像しただろうか。こういう経験ができるから、やはりあの時の自分の決断は、良かったと改めて思えた。
1000円カットを永遠に繰り返していたら、こんな髪型になれなかったし、こんな感情にもならなかったし、あの美容師さんに切ってもらったことで、なんだか自分の価値まで上がったという、おそらく錯覚の感情にも浸ることは出来なかった。
髪を切る、という1つの出来事で、1つの決断で、こんな文章まで書けてしまう。
あの美容師さんが私に与えてくれたものは、今の髪型だけではない。それを考えたら1000円カット×10回以上の値段など、はっきり言って、安い。
髪が伸びる早さなど、早くなるはずもないが、髪を切ってもらうには、ある程度、伸びなければいけない。早く、あの美容室に行きたい。早く、髪が伸びないだろうか。