言い寄られても、自分に正直に、ありのままを見せる勇気はなかった

高校生の頃、私にとっては結構大きな裏切りにあって、心の底から人を信じるだとか、人を頼るといったことが、どうでもよくなっていた。
その上、その出来事以来、月に一度襲ってくる原因不明の高熱のせいで、毎日生きていくのもやっとだったし、いつ熱が出るかわからない不安の中で、いつ熱が出るかわからない不安の中、ただ生きていくことが、何でこんなにも大変なんだろうと思うことが何度もあった。

中高生の間に磨き続けたモテテクのようなもので、それなりに言い寄ってきてくれる人はいたものの、そんなテクニックで寄ってくるような人は、きっと本当の私のことなんて見ていないんだと心のどこかで思っていた。
それなのに自分に正直に、ありのままを見せる勇気もなくて、私のことを可愛くて清楚で癒し系なのだと思い込んだ男の人たちが、自分の理想を私の上に重ねて見ていることに気づきながら、ちやほやされる優越感に浸っていた。

そんな時、彼に出会った。
指揮法(音楽の指揮について学ぶ)の授業で、発表のグループが同じだったことがきっかけだった。私も彼も、お世辞にも指揮がうまいとは言えなくて、それでもまぁ少しでも上手になろうと話しているうちに、意気投合したのだ。

私にとって、ここまで気が利いて優しくしてくれる人は初めて

初めてのデートで、彼は酒焼けしたガラガラした声で、前日がコンサートの打ち上げで朝まで飲んでいたからと言い訳をした。
酒焼けするほど朝まで飲み続けるなんて、と内心若干引いて、この人とは上手くいかないかもなと思ったが、それ以外の点で完璧だったのだ。

絶対に車道側は歩かない、お店では奥のソファーやしっかりした椅子を必ず私に譲ってくれる、帰り際上着を着るときは上着を取ってきてくれて、腕を通してくれる、そして話が面白くて尽きない。
え?男の人なんてみんなそうしてくれるものじゃないの?と思う人もいるかもしれないが、私にとってここまで気が利いて優しくしてくれる人は初めてだった。

いつだっていち早くお箸を配って、おしぼりを渡して、サラダを取り分けて、飲み物がなくなったらメニューを渡していた私よりも、彼の方が数秒の差で全て早く気づいてやってくれるのだ。
最初は、そうやって何もかもやってもらって、気にかけてもらうのが気恥ずかしくて慣れなくて、ひとりもじもじしてしまったのが、今じゃやってもらっても「えへへ」と笑って済ます始末だ(ごめんなさい、ちゃんとありがとうと言おうと思いました)。

クールな印象な彼は、実は愛に溢れたとても優しい人だった

最初は熱を出して何度もドタキャンしたが、怒ることもなくとても心配してくれて、学校では少し冷たそうな、クールな印象な彼は(内輪ではとてもおちゃらけた人だったらしい)、実は愛に溢れたとても優しい人だった。

毎日夜寝る前の電話は欠かさないし、私のどうでもいい一日の報告をそれなりに適当に聞いてくれて、眠くなってくると好きと言ってくれる。
疲れるとすぐ泣く私に付き合ってずっと話を聞いてくれるし、私の好きな所十個挙げてとかいうめんどくさいことにも、楽しそうに答えてくれる。
超がつくほど方向音痴の私が初めての場所に行く時には、電話しながら道案内をしてくれるし、電車の乗換に困っても、機械に困っても、いつだって助けてくれる。

学生の頃よりだいぶふっくらした私の身体をつまみながら、健康的で良いよと言って絶対否定しないし、すっぴんを見せても可愛いと言ってくれる。
寝る時、私の目がうっすら開いていてちょっとホラーでも、嫌いにならないでいてくれる(笑)。

いつだって味方をしてくれる。昔ほどストレスに弱くなくなった

どんな私でも愛していてもらえるという安心感と、何かにつけて可愛いと言ってくれるおかげで、自己肯定感が上がった。
いつだって味方をしてくれて、話を聞いてもらえるおかげで、昔ほどストレスに弱くなくなった。

小手先のモテテクなんて使わなくたって、いつも完璧にメイクして髪を巻いてなくたって、高くておしゃれなバーに行かなくたって、一杯千円近くするコーヒを飲みに行かなくたっていい。

ただバカなことを言って笑い合ったり、たまに少し真面目な話もしてみたり、焼き鳥とビールがおいしいと騒いでみたり、二人でパンを焼いてみたり、ゆっくりカプチーノや抹茶ラテやココアを自分たちで淹れてみたり。
そんなただの日々を、一緒に過ごせるだけで幸せだと常々思って早三年。

気づけばもう熱も出なくなっていた。