ため息が出るほど繊細で美しい「つまみ細工」の世界

「つまみ細工」という言葉を聞いたことがなくても、和装のときに着ける髪飾りと言えば思い浮かぶ人が多いと思う。
布をつまんで折り、それを花弁に見立てて花を作る。いくつもの花を合わせて、ひとつの髪飾りとなる。成人式や結婚式などで髪につけられるつまみ細工は、ため息が出るほど豪華で、繊細で、美しい。

初めて自分のものになったつまみ細工は、成人式用に、と購入してもらったものだった。花は5つで、やや控えめな印象もあるが、藤色が鮮やかで気に入っている。
もともと和風なものが好きで、帯をリメイクして作られた筆箱とか、ちりめんでできた小物入れとか、そういうのに目がなかった。必然、つまみ細工にも強い興味を持った。
しかし、着物屋さんに置かれるようなつまみ細工の髪飾りはお高い。小ぶりのものでも1万円近いとかざらである。大学生だった私に高価なものを買い漁る金銭的余裕はなく、眺めて満足する他なかった。

眺めて満足していた「つまみ細工」の世界の広さを知ることに

そんな状況が一転したのは、デザインフェスタというイベントに、友人に誘われて行ったときだった。
デザインフェスタとは、東京ビックサイトで行われるアートイベントである。プロアマ問わず、アーティストが参加して作品を作ったり売ったり発表したりする。
とても広い会場に机が並べられ、アーティストたちが鈴なりになっている。そして陳列された作品たち。あまりに多種多様で圧倒された。

ひとつひとつじっくり見たいけど、そんなことをしていたら半分も見れない。友人は事前に気になるアーティストを調べて、地図に印を付けていた。しっかりしている。気になるブースがあったら立ち寄るから言ってね、と優しい友人に先導され、会場を回った。

つまみ細工を扱ったブースがあった。それもいくつも。
そこにあるつまみ細工は、もちろん伝統的なものもあったけど、洋風だったり、ストラップやクリップにワンポイントで飾られていたり、髪飾りに囚われない作品が多かった。花弁の布なんて、サテンの光沢のあるものが使われていたり、コットンでも柄物だったり。
今まで眺めて満足していたつまみ細工の世界は、実はこんなにも広かったんだ。

優しい友人にしばらくこの一角にいることを伝え、存分に作品を堪能した。しかもありがたいことに、花がワンポイントで飾られた小物は千円くらいで買えるものも多かった。
吟味して、鶯色の花がついたクリップをお迎えした。つるつるした布で作られていて、光を反射して煌めく様に目が離せなくなったのだ。

美しさに魅せられた私は自分で作り始め、その難しさに驚いた

帰宅しても、しばらくは夢の中にいるようだった。
あんなにたくさんの、素敵なつまみ細工たち。魅入られた。まさしくそうなった私は、つまみ細工を作ることにした。

インターネットと本で作り方を調べて、手芸屋さんへ買い物へ。専用の板や糊は売られていなかったけど、似たようなものを入手した。布も気に入ったものを手当たり次第に買った。
最初は下手っぴだった。布を数センチ角に切り出し、ピンセットを駆使して何度も折る。崩れないように糊を敷いた板に置く。苦労してやっとできても、それが花弁ひとひら分だ。繰り返してやっと、台紙に花を咲かせることができる。

挑戦してみて、難しさに驚いた。つまんでもすぐに崩れるし、細かい作業に肩が凝る。
世の中に売られているつまみ細工は職人技なんだと尊敬して、自分のひしゃげた花に悲しみを覚えた。

でも、成人式で着けた髪飾りや鶯色の花のクリップが、上達して素敵なものを作りたいという気持ちを後押しし続けてくれた。私は結構、自分を飽き性な方だと思っていたが、こつこつと作り続けた。
そして、1年も経てば上達するし、作品もたまる。そうすると、特に良くできたものを世に出してみたいと思ってしまった。

私の人生に彩りをくれた「つまみ細工」を、一生愛でるだろう

当時住んでいた所でやっていた、小規模のハンドメイド作品のイベント。つまみ細工の髪ゴムやヘアピン、ストラップを携え、参加した。
素人だしな。自分のスペースで小さくなって、周りをうかがう。どれもクオリティが高くて場違いに感じてしまうが、すぐに霧散した。
私のつまみ細工を買ってくれた人が、そこそこいたのだ。しかも、可愛い、と感想までくれる方の多いこと。

つまみ細工を好きにならなければ、こんな高揚感も得られなかった。
大学を卒業し、就職したら途端に忙しくなった。でも、つまみ細工作りを細々と続けた。その結果、自分の結婚式で自作の髪飾りを着けることができたのは、ちょっとした自慢である。

多分、つまみ細工を一生愛でるだろう。世に溢れる素敵な作品を楽しみ、時には自らも作り。
人生の彩りと出会えたことは幸運だった。心の底からそう思っている。