ピンクから離れてみる。これが2021年、26歳になる私の目標だった。
きっかけは、シンプルな「変わりたい」という衝動。希望部署ではない社会人1年目、大失恋、初めての一人暮らし、友人の結婚。様々な要素が折り重なった先で生まれた現状打破の欲求から、発作的に、生まれて初めて爪を青く塗った。

「別に好きなわけじゃないんだけど、なんかピンクを選んじゃうんだよね」
高校時代の友人に言われた言葉が蘇る。今の自分も彼女と全く同じだ。ピンク色の筆箱の中身が、全てピンク色のペンで揃っている。
色々な色が並んでいると、ピンクに手が伸びる。けれど、好きかと聞かれると首を捻ってしまう。好きなわけじゃない。それでは何故?

指先に塗られた海の底のような青色が、ふとした時に目に入ってぎょっとする。気づけば、ピンクが一番落ち着く色になっていた。

ピンクは可愛い色。自分が可愛くないから、ピンクが好きと言えない

小学生までは、色んな色が好きだった。物心ついた時に好きだった色は黄色。当時の戦隊物の、イエローが好きだったからだ。ピンクが好きだと胸を張って言えていた時期もあった。
好きな色を聞かれてすぐに答えられなくなったのは、中学生の頃かもしれない。

可愛い色。可愛い子が似合うピンク。
ピンクのものは可愛い。可愛いけれど、自分自身がそんなに可愛くないから、ピンクが好きだというのは恐れ多い。それでも、他の人からピンクが似合うイメージであってほしい。プリクラの落書きで自分の名前が顔の近くに書かれる時、ピンク色のペンで書かれたい。
そんな思春期特有の相反する気持ちが重なりあって、そのまま「ピンクを好きだと胸を張って言えないけれど、ピンクが可愛いと刷り込まれて自然と選んでしまう私」に成長してしまったのだと気づいた。

選択肢は、自分で狭めていた。本当に可愛い色はピンクだけなのだろうか?
青い爪を眺めながら、今年はピンク以外の色に挑戦してみようと誓った。

似合う色がわかったのに、あまり嬉しくも楽しくない

手始めに、パーソナルカラー診断をプロにやってもらった。顔色が明るく見える色を探す、流行りのやつだ。
結果はイエベ秋。友人たちから言われていた色とは大きく異なっていたので最初は懐疑的だったけれど、似合うメイクをしてもらって納得した。

イエベ秋の色たちは、今までの私が進んで選ぶ色ではなかった。ピンク色も、あまり選んでこなかったコーラル系しか入っていなかった。やっぱり私は王道ピンクは似合わないのだな、と思う気持ちもあったけれど、似合う色がわかった私は、なんだかかなり変われる気がして前向きになれた。

なれたのだけど。

今度はイエベ秋に囚われて、それ以外の色を敬遠するようになった。可愛いなと思ったコスメ、服は大体イエベ秋ではなかった。だから除外した。
似合う服を着て、似合うメイクをしている。それなのに、あまり嬉しくも楽しくもなかった。

世の中は、ピンクだけではない。色々な素敵な色がある

そんな矢先、お洒落な友人に服を選んでもらう機会があった。色々なお店を回った最後に彼女は、鮮やかな空色のニットワンピースを私に手渡した。
「これ、着てみてほしい。絶対似合うと思う」
イエベ秋の色じゃないし、綺麗な色だとは思うけれど、似合わないのでは?と戸惑ったが、それでもかなり強く推されたので、とりあえず試着室で着替えることにした。

袖を通して、ボタンを留めて、ウエストのリボンを結んだ。鏡に映る空色のニットワンピースを着た私を見て、思わず目を見開いた。顔色は暗く見えるかもしれない。それでも「このワンピースを着て出かけたい!」と心の中で私が叫んだ。
恐る恐る試着室のカーテンを開けると、友人が「めっちゃいいじゃん!」と満面の笑みを浮かべた。つられて私も笑った。もちろんワンピースはお買い上げした。

色の冒険の年が終わった今、ピンクからキッパリと離れられたのかと聞かれれば、正直そうではないかもしれない。
それでも、少し選択肢は広がったと思う。
世の中は、ピンクだけではない。色々な素敵な色がある。似合う色もあるし、似合わなくても身につけたいと思う色もある。
それに気づけただけでも、やる価値のあった冒険だった。
色の冒険は、これからもまだまだ続けていこうと思う。