あの決断があったから、今、セラピストという職業に就いているというエピソードを紹介させていただく。
少し重い話になるかもしれない。
両親が医師で兄は医学部。当然自分も医学部に行くと思っていた
私は高校生のとき、医師になることを目指して勉強していた。両親が医師ということもあり、4つ上の兄のように私も医学部にいくものだと思っていた。
当然医学部は難関のため、勉強をたくさんしなければならない。部活動と両立して勉強を頑張っていた高校2年の夏休みに機会をいただき、病院で3日間のインターンシップをさせていただいた。
インターンシップではいろいろなことを経験させていただいた。
産婦人科ではお腹の中の赤ちゃんをエコーで見せていただいたり、放射線科ではどのように検査をするのかを見せていただいたりした。
小児科に行った際には、女性の小児科の先生に、女性が医師になったときに子供をどうすればよいかということを教えていただいた。医師の仕事は忙しいため、積極的にベビーシッターなどを活用することを勧めていただいた。
高齢者のリハビリの様子も見学させていただいた。医師や看護師、理学療法士や作業療法士などの方々が患者さんのために献身している姿を見て深く感銘を受けた。
インターシップを通して学んだ、医療の厳しさと仕事の大変さ
2日目は、訪問介護の現場に同行し、どのように訪問介護を行なっているのかを見学させていただいた。
1人目の方は、だんだん体が動かなくなってしまうという病気を患っていて、食事や排泄の介護が行われていた。その方は女性で、旦那さんが介護をされているそうだが、旦那さんが仕事でいないときは訪問介護を利用しているそうだ。だんだん動かなくなる体や、いつかは病気により亡くなってしまう恐怖と向き合うのはどれぐらいのものなのだろうかと、考えさせられた。
2人目の方は、高齢の女性で寝たきりになってしまい、こちらも食事や排泄などの介護が行われていた。その女性の旦那さんが付き添われていて、その女性が足を洗ってもらっているときに「痛い、痛い」と言っているのに対して、旦那さんが「我慢せえ」と言っていたのが印象的だった。介護の大変さと旦那さんの奥さんへの愛が垣間見えた。
私は3日間のインターンシップを通して、医療従事者への感謝と尊敬の念を持ったとともに、医療の厳しさを学んだ。今まで医師になるために勉強をしていたが、医師の仕事内容をあまり知らなかった。インターンシップで直接体験することによって、医師の仕事の大変さを知ることができた。
医師が素晴らしい職業と分かったと同時に、開けた新しい選択肢
私は本当に医師になりたいのか?と自問自答していた矢先に、内科の先生が医師になりたくないのなら医師にならない方がいい、というお話をしてくださり、私の心は決まった。
医師という職業が素晴らしい職業であることが分かったと同時に、私は本当は医師になりたくないのだということも分かった。今まで自分は当然医師になるものだと思っていたが、医師になる以外の道もあるのだと思えた。
そのときはまだ他になりたい職業はなかったが、医師にはならないということを決めた。
私は今ではセラピストとして活動している。癒しという面では医師という職業と少し似ているが、人も動物も癒せることにやりがいを感じている。
あのとき勇気を持って自分の心に問いかけ、自分は医師にはならないという決断をしてよかったと今では思っている。