社会人になって数年が過ぎたころ、男性上司からこんなことをよく聞かされていた。
「〇さんはお子さんまだ小さいし、大きな仕事はちょっとねえ」
「▢さん、この間結婚したからいつ産休に入るか分からないし……」
「◇さんはそろそろ子供を考えているみたいだけど、△さんは無さそう。だって犬飼い始めたから」

はじめは、上司はそんなことまで考えているのかと驚いたが、後からじわじわと違和感を覚えた。
結婚しているか、出産を考えているかで仕事って割り振られるの?
女性は全員、こんな風にどこかで判断されているの?
私たちは、誰かの代わりでしかないの?
当時、結婚にも子供にも縁のなかった私。余計に少し腹が立ってしまった。

精神疾患となり休職した。仕事を離れた途端、働きたくなった

昨年、私は精神疾患となり仕事を長く休んだ。
休職中の間、改めて社会を見渡した。世の中には、本当にいろんな仕事がある。どんな商品でも、どんな商品が売れるのか調べる人、アイデアを出す人、デザインを提案する人、実際に商品を作る人、広告を考える人、売る人、届ける人……。消費者に届くまでに数多くの人が携わっていて、その積み重ねで社会が成り立っていると25歳で実感した。

その中で、「私もどこかの役割を担えるんじゃないか」「働きたい」と考えるようになった。仕事を離れた途端働きたくなるなんて、不思議な感覚だった。
それもあって、上司から「仕事に戻ってきてほしい」と言われるたびに頭を抱えた。私が今さら職場に戻って、何ができるんだろうか。むしろ迷惑なんじゃないか。でも、何かできるなら。

早く元通りに仕事がしたい。復職し、少し自信が持てるようになった

長くお世話になっている上司の言葉に応えたい気持ちもあり、復職することにした。
フルタイムだったところを午前中のみに調整してもらい、仕事内容も軽い作業から始まった。通勤で体力を奪われ、同僚とのやり取りに気力を取られながらも4時間必死に働いた。

毎日、帰り道に「なんとかやりきった」と安堵していた。
以前の自分と比較して、できなくなったことの多さに落ち込むこともあったけど、数週間経った頃には「案外、ちゃんと社会に戻れたじゃん」と少し自信が持てるようになった。早く、元通りに仕事がしたい。前にやっていた業務を引き継ぎたい。そう思っていた。

「今のあなたはけっこう頑張っているから、これ以上無理はしないように」
産業医からの言葉だった。これにひどく混乱してしまった。

私が休職しようが復職しようが社会は回る。でも、私はたった一人

来月からはフルタイムでって上司から言われたのに、これ以上無理しない方がいい?
全然できないことばかりなのに、今の私にとってはこれが精一杯なの?
周囲の目や過去の自分ばかり気にして、私にとってはオーバーワークだったことに気付けなかった。その後、再び調子を崩して働けなくなった。

数年前、「所詮私は誰かの代わりでしかない」と憤っていたけど、良くも悪くもその通りだった。私が休職しようが復職しようが、社会は回る。仕事はいつだって代わりがいるけど、私はたった一人。代わりなんていない。だから私が私で居続けられるように、職場を手放すことにした。

これからは、無理せずできる仕事を探そう。まだまだ病気とは長い付き合いになるだろうし、今後妊娠・出産をするかもしれないけど、それに囚われずにできる仕事が、どこかにあるはずだ。

できなくなったことを数えて落ち込んだ私に「環境を変えたらできることだってあるよ」と見せてあげたい。少し離れたところから社会を見て「働きたい」と感じた私に、「私らしいペースで働けてるよ」と自慢したい。
過去の自分に「今の私、良い感じでしょ」って胸を張れる仕事がしたい。