人生はエキサイティング。就活で青ざめた友達に教授は告げた

大学4年の春、カタール航空のCAに内定していた友達は、カタールの国交断絶ニュースを知って青ざめていた。そんな友達に教授はこう告げた。
「人生ってエキサイティングね」
そして続けた。
「その困難は、何をあなたに学んでほしいと思っているのか、それを考えることが大切よ」

授業終わりに、同じゼミの友達と校内のカフェテリアに集まって話し込むのが、当時のルーティーンだった。
話の内容は、いつも決まって今日の授業で発せられた教授の名言についてだった。私たちのゼミは、コロンビア人の女性教授が担当していて、ゼミ生がフェミニストに育つと有名なゼミだった。
教授は毎回、最後の10分間で今日のまとめをしてくれるのだが、それはさながらTEDTalkを思わせるほどの見事な演説だった(ちなみにTEDTalkとは、世界中の著名人による講演会だ)。
一度日本で選挙に出てみたらどうかと提案したが、「日本人は外国人の話なんて受け入れないでしょう」とあしらわれてしまった。そんな教授は、日本の就職活動に対していつも不服そうにしていた。
「授業を休んで面接に行くだなんて、あなたたちは貴重な最後の学生生活を企業に搾取されているわ」

モラトリアムと言われる選択にも胸を張れたのは、教授がいたから

私も友達も、もはや信者のように教授に憧れていた。日本の就職活動に対する意見にも、大いに賛成だった。だから私はやりたくもない就活は一切行わず、合同説明会に参加したこともなく、なんなら髪も茶髪だった。
卒業後は、オーストラリアで日本語を教えるプログラムに参加することにしていた。誰かに「モラトリアムだね」と言われたが、「そうだよ」と胸を張って答えていた。それは教授の放った言葉が、私の後ろ盾となってくれていたからだと思う。
プログラムに参加するにあたり、教授の推薦状が必要でオフィスを訪れたときのことだった。
「私はね、自分のゼミ生みんなが就職という道を選ばずに、いろんな未来を選択しているのがうれしい。就職する子もいれば、大学院に進む子、そして、あなたのように海外へ旅立つ子」

人と違う道へ行くのに不安がなかったわけではない。けれど、小学校から大学まで周りの友達と同じような進路を辿っていると、これがあるべき道なのだと言わんばかりに、自分の目の前には太いレールが敷かれているような気がしていた。そしていつしか、その道を歩くのが嫌になっていた。
その道というのは、普通で無難で、でも大多数の人にとっては「幸せ」へと続く道で、「常識」と名のついた、そんな道なのかもしれない。それを受け入れられない私は、社会不適合者なのだろうか。そんなことを考えている時に出会ったのが、教授だった。

あれから5年経ち、また平凡という道から外れようとしている

教授の授業テーマは「当たり前とは何か」だった。
日本人とは何をもってして日本人であるのか。パスポートの有無か、血か、育った環境か、生まれた場所か、日本語が話せることか。
当たり前なんて存在しない、それが授業の結論だった。そんな授業を通して、私は誰かが引いた平凡という道から外れる勇気を貰っていた。

今、あれから5年ほど経ち、私はまた平凡という道から外れようとしている。
大学卒業後、海外に出たにもかかわらずまた日本に戻ってきた私は、毎日「なにか違う」と思いながら会社勤めをしていた。が、その会社を辞める決断をしたのだ。
次の就職先は決まっていない。コロナによる渡航制限が緩和されつつある中で、また、海外に行こうかと考えている。
不安がないわけではない。なんなら、あのときより年を取った分、今のほうが不安が大きい。恐怖に飲まれそうなこともある。ただ、教授の言葉が何度も思い返されて、私の背中を押してくれる。
「ShouldかWantなら、Wantでしょ」と。

動かない方が後悔する。人生はエキサイティングでありたい

現実的に考えるなら、会社を辞めてあてもなく漠然と海外へ、など無謀な挑戦だ。特に私のように30歳が迫ってきている状況なら尚更、もうそろそろ腰を据えなさいと世間からは言われるんじゃないだろうか。
私の決断を非難する人もいるだろう。けれど、私は22歳の時、すでに無難という道から外れている。あのときの私がいるから、初めて飛び込む怖さはもうないのだ。むしろ、22歳のあの時、海外で経験したわくわくをもう二度と味わえないと思う方が怖い。
今、動かない方が後悔しそうだった。未来が見えないから怖いんじゃなくて、未来が見えそうだから怖かったのだ。私の人生は「エキサイティング」でありたい。

最後にもうひとつ、教授の名言集の中から紹介したい言葉がある。
「正しい選択なんてこの世には存在しない。大事なことは、自分がした選択を、正しい選択だったと思えるように努力することだ」
私は今回の選択を後悔しないように、努力を続けていこうと思う。