ピンクは"女の子の色"。今でもまだ、世間ではそんなイメージが根づいている。
私が小学生の頃、薄いピンクのシャツを着て登校して来た男の子がいた。
その子はぽっちゃり体型で、クラスのいじられキャラだった。
教室に入った途端、クラスの数人の男子が笑い始めた。
「お前、ついに豚になったのか?」
「男なのにピンク着てるんだけど!」
それを聞いて、他のクラスメイトたちも次々と笑い出した。

笑ってしまったけど、男の子はピンクを着ちゃダメなの?

私もつられて笑ってしまったものの、「男の子はピンクの服を着ちゃダメなの?」と不思議に思っていた。
本当は「何色の服を着ても自由じゃないの?」とその場で言いたかった。
でも、当時の私にはそれができなかった。
周りと違うことを言って、目をつけられるのが怖かった。

帰宅してから、母に学校であったことを話した。
「別に何色着てもいいじゃんね」と、母も私と同じ考えだった。
そういえば私の父も、たまにピンクのポロシャツを着ていた。
所属している団体の会合に参加するために着る、よそ行きの服の一つだ。
婿養子なのだが、実家から服一枚持って来なかったので、全て私の母や祖母が買ったものを着ていた。
ファッションセンスも皆無なので、本人は着られればいいという感覚だったのかもしれない。
「ピンク着るの、恥ずかしくないの?」と聞いたことがある。
「恥ずかしくないよ」とすぐに答えた父。
「お母さんの好きな色だし、お父さんは気に入っているよ」
普段は何も考えてないように見える父。
プチ愛妻家だからかもしれないが、ピンクの服を"気に入っている"と恥ずかしがらずに言っている父がすごいと思った。
当時の私には、ピンクのポロシャツを堂々と着ている父がかっこよく見えた。

ピンク好きのイメージを押し付けられ、ピンクが嫌いになった

同じ時期の話だが、もう一つピンクについて思い出したことがある。
私の一番好きな色はオレンジ。
明るく元気になれる、太陽の色だから。
私がそう言うと祖母は「ステキな理由だね」と、いつもの私の頭を撫でながら褒めてくれた。
クラスメイトと好きな色の話になったことがあった。
皆が順番に答えていき、私も答えようとしたときだった。
「みちるちゃんはピンクでしょ?」
近くにいた子がそう言い出した。
すると他の子たちも納得したように頷いていた。
「女の子っぽいもんね」
「ピンクの服がよく似合いそう」
私は本当に好きな色を言えなくなってしまった。
雰囲気を壊さないために「ピンクが一番好きなんだ」と嘘をついた。
"女の子らしい"からピンクが好き。
そんなイメージを押しつけられたことが嫌だった。
ピンクという色に罪はないけれど、私はそのときからピンクが嫌いになった。
服はもちろん持ち物もすべて、ピンクを避けるようになった。
ピンクと水色だったら、すかさず水色を選んでいた。

私という人間を見て、「ピンクが似合う」と言ってくれた祖母

ある日、祖母と買い物へ行ったとき、ピンクのワンピースを手に取った祖母に私は「ピンク嫌だから」と断った。
すると祖母は「みちるちゃんに似合うと思うよ」と言った。
私はクラスの子たちに言われたことを思い出し、不機嫌になってしまった。
「女の子はピンク着なきゃいけないの?」と私は祖母に聞いた。
祖母は少し考えてから、こう答えた。
「何色のお洋服を着ても、その人の自由だよ」
「優しくて可愛らしいみちるちゃんには、ピンクが似合うとおばあちゃんは思っているよ」
祖母は、私が"女の子だから"似合うと言っていたわけではなかった。
私という人間を見て、その上で「ピンクが似合う」と言ってくれていたのだった。
祖母の言葉を聞いてからは、ピンクを好きになれた。

ピンクだけにかぎらず、トイレのマークなど、色と性別を結びつけて考えられているものはまだまだある。
男性がピンクを好きと聞いて「あの人オネエじゃない?」などと、悪口を言っている人を見かけたこともある。
男性だから、女性だからこの色と決めつけない世の中になったらいいなと思う。