音と人との出会いを求めるクラブは、なくてはならない存在
話し声がかき消されるほどの大きな音。会話をするために相手の耳元に寄せる口、密着する身体。大勢の人で賑わうフロアが揺れているのか、酒で酔った自身の身体がふらついているのか分からなくなるくらい、私の身体はアルコールで満たされていた。
時刻は深夜1時を回ったところ。身体に響き渡る重低音が気持ち良い。ずっとこの音の中で生きていたい。そんなことをぼんやり思う私の脳は、まだ少しまともなのか、もうショート寸前なのか、その判別すらできなくなっている時点でもう危うかった。
音と人との出会いを求めて集う場所、クラブ。賑やかなその場所は、私にとって「無くてはならない存在」であった。
一夜の関係を求める者、ただ騒ぎたいだけの者、音好きの仲間を探す者、そして、ただ1人で音の世界を楽しむ者。沢山の人で溢れ、さまざまな思惑が交錯するこの空間を、苦手だと思う人もいるかもしれない。しかし、私には憧れの場所でもあった。
騒ぐのが楽しいだけの音楽を、いつしか純粋に愛するように
20歳になり、やっと入場が出来た夜は、それまでの人生で1番にはしゃいだのを今でも覚えている。その時は「友達と爆音の中、騒ぐのが楽しい」という感覚だったが、music barで働くようになり、自身もDJを始めるようになった頃には、音を純粋に愛するようになっていた。
「この曲は何ていう曲だろう?」「知らない曲だけどかっこいい!」「あ、これはあの時の曲だ!」なんて、DJが音を繋げるたびに1人でドキドキワクワクしながらフロアで揺れていた。「次はどんな曲がかかるのだろう」。そんなことを思い、胸の高鳴りを感じながら。
昔から1人行動に抵抗が無かった私は、クラブにも1人で行くようになっていた。ふらふら歩いているうちに、DJの先輩や音楽繋がりで知り合った仲間と、街中の音楽スポットで会うこともしばしばあった。
「女の子が夜の街中を一人で彷徨くなんて」というのが世間一般的な見解かもしれないが、そんなことは関係ないし、気にしていない。少なくとも、音好き仲間はみんな理解してくれていた。
集まった音好きがひとつになる瞬間は、尊くて素晴らしいもの
帰りが朝になることなんて珍しくない。もはやそれが定番だった。
音の途中で帰るなんてもったいない、というのが私の考え。DJが繋げる音の世界に酔いしれたかったのだ。
お酒を飲み、音に揺れる。それだけで、それまでの疲れやストレスが吹っ飛ぶような楽しさ、幸せ。プレイヤーとしてDJをする時もそれは変わらなかった。
お客さんと一緒になり楽しむ。同じ空間に集った音好きが、更にひとつになる瞬間を感じるたびに、最高の高揚感に浸ることができるのだ。
そんな夜を知ってしまったら、眠ることなんてできない。眠りたくなんてない。このまま朝が来るまで、音を感じていたい。音の波に溺れてしまいたい。そんなことを考えながら、私は今日もクラブのフロアで気持ちよく揺れるのだ。
音と人との出会いは何事にも代え難い、尊く素晴らしいものだから。もちろん、そんな中でも少しは気をつけている。お酒はほどほどに、と自分に少しだけ言い聞かせて。