見つけた元彼との2ショット。今の彼には内緒で持ち続けている

「あれ、この箱何いれていたんだっけ……。あっ!!!」
何気なく開けた箱に、懐かしい男とのツーショット写真が入っていた。
慌てて閉じた後、一緒に部屋を片付けていた彼氏の顔をおそるおそる見る。バッチリ彼氏と目が合った。
「捨てるのは、気持ちの整理がついてからでいいよ」
と、捨てられた子犬のような目で見てくる彼氏に、申し訳なさを感じながら、「すぐ捨てるから」と言って、処分する……フリをした。
彼氏よ、ごめんなさい。

写真に写っていた彼とは、なんだかんだ5年の付き合いだった(その間、別れと復縁が何度かあった)。
出会いは大学のサークル。好きなアーティストが一緒で、「ライブに行きませんか?」と誘ってもらったのがきっかけで、好きなアーティストのイベントに何度か行くうちに、お付き合いをすることになった。
正直、顔は好みではなかった。しかし、一緒にいて楽しかった。
しょっちゅうアーティストの話をしていた。金銭感覚も似ていて、交通費を払うなら歩く!というタイプだった。交通費をケチってヲタクトークをしながら歩くホテルからの帰り道が、最高に楽しかった。
何となく、彼と結婚するのだろうと思っていた。環境が変わり、お互いの家の距離が片道2時間半になっても、どこかできっと彼と一緒に過ごせる日が来ると思った。

空想の世界に行けるなら。彼と付き合っているのだろうか

ある日、私は入院をした。
社会人になった私は、職場での人間関係に悩み、限界を迎えてばったり倒れてしまった。
コロナ禍になる前だったが、インフルエンザが流行している時期のため、面会は家族以外お断り。
心細かった私は、彼に電話した。
「仕事が辛い」「入院が辛い」。泣きわめく私に、彼は何も言ってこなかった。そして、逃げるように「もう切るね」と言われた。
同僚のおかげで立ち直り退院したのだが、「どうして彼は入院中、何も言ってこなかったのだろう……」と心にずっとわだかまりがあった。
わだかまりは徐々に大きくなり、コロナ禍を迎え、片道2時間半かけて会いにいく気力がなくなり、私たちは別れた。

それからいくつか恋をし、今の彼氏とお付き合いしている。
今の彼氏は、整った顔立ちをしていて、時折鬱になる私の話をじっと聞き、「好きだよ」と優しく抱きしめてくれる。
しかし、趣味は全く合わない。
好きなアーティストのネットニュースを見ると、元彼を思い出す。付き合ってた頃だったら、ここでLINEを送り、ヲタクトークで盛り上がっていたのだろうな、とスマホを見ながら思う。

もし……鬱にならなかったら。
もし……片道2時間半という中距離恋愛にならなかったら。
元彼と付き合っていたのだろうか。

別れてから何度も恋をしたはずなのに、元彼のことを思い出すのは、未練なのか何なのか。
でも、メンタルボロボロだった私を、優しく包んでくれた今の彼氏と別れたくない。
元彼との写真を改めて見返す。
「もし……」の世界が叶うパラレルワールドがあって、今頃こんな風に、楽しく笑い合っていたりしないかな。
写真を捨てると、パラレルワールドがなくなってしまいそうだから、捨てられない。
捨てない分、今の世界で、目の前にいる彼氏と沢山の思い出を作っていきたいと思う。