「一緒に住むのをやめたい」
彼にそう言われた。こんな映画みたいなセリフを、まさか聞くことになるとは思っていなかった。
喧嘩しても、一緒にいられる方法を見つけていけると思っていた
社会人になると同時に、同じ家で暮らし始めて1年、確かにここ最近、一緒に居るとなぜだか空気がヒリヒリして、どうしたらいいのか分からない日が続いていた。でもまさか、彼がそんな風に考えているなんて、予想もしていなかった。
彼は何事もきっちりやらないと落ち着かない人で、家事もまめにやる。私はできる時に必要な分だけやればいいと思っている人。一緒に暮らしていて、その違いがお互いにストレスになることもあったと思う。
でも私は、喧嘩してお互いにケガしながらでも、一緒に居られる方法を見つけていければいいと思っていた。というより、見つけていけるものだと思っていた。
でも彼は違ったらしい。彼が話す空気がただ事ではなかったので、私は一瞬で「ここで何かを間違えたら終わる」そう思った。
私には、彼とお付き合いを始めた頃からずっと感じていたことがある。もしもこの先、二人の関係が壊れてしまうことがあるとしたら、彼の方が先に私の事を嫌になるだろうということ。何か大きな理由がある訳ではなかったけれど、直感でずっとそう感じていた。
離れたくはないなんて、私には言うことができなかった
とにかく私は彼の話を遮ることなく聞いた。いつもだったら、すぐに言い返して頑固になるところだけれど、そんなことをしている場合ではなかった。そして、彼が感じていることを少しでも理解するために、ひとつひとつ分からないことを聞いた。
何が原因なのか、仕事が忙しくてそう感じてしまっている訳ではないのか、私のことが嫌いになったのか、離れることしか解決方法はないのか。
私はとても冷静だった。そしてこれから先のことを考えていた。
そして最後に彼はこう言った、一緒に居ることがどうしようもなくしんどい、家に帰って来ても心が休まらないと。
ここまで言われてしまったら、私はもう受け入れるしかなかった。私の存在に、彼が悩まされているのだとしたら、それでも離れたくはないなんて、私には言うことができなかった。
夏までの猶予をくれた彼は「人は簡単に変われない」と言った
ただ、社会人生活1年目の私たちにはすぐに引越しが叶う程、金銭的な余裕は無かった。むしろ余裕がなくて良かったとさえ思う。
彼は夏までの猶予をくれると言った。夏にもう一度話し合ってどうするかは決めると。そして彼はこうも言った。
「人はそんなに簡単に変われないから」と。
その言葉を聞いて、私は心の中でこう言った。
「あなたに対する私の愛は、そんなに弱くない。私が今の堕落した生活スタイルを変えられないだろうと思っているのなら、私のことを甘く見すぎてる。口だけじゃないことを必ず証明して見せる」と。
私は表には出さないタイプの負けず嫌いなので、どうせできないと諦められると、やってやるからと強気になってしまうのである。全然可愛い彼女ではない。
実際にこの日から数週間。私は今、仕事から帰ったらすぐにお風呂に入り、洗濯をまわし、ずっとしていなかった料理もするようになった。やってみると意外に、きちんと生活している感が心地良くなってきたりもしている。
彼の愛に甘えていた。愛は貰ってばかりでは上手くいかないのだ
私は今まで、この先もずっと一緒に居てくれるだろうと安心しきって、彼の愛に甘えていた。そして私は気づいた、愛は貰ってばかりでは上手くいかないのだということを。そして今私は、愛によって変わろうとしている。変われるということを証明しようとしている。
私は夏が好き。夏という響きを聞くだけで、楽しい日々がそこにあるような気がするから。でも、今年の夏は違う。予想外のイベントが待ち構えている。
二人が楽しく居られる夏でありますように、そう祈りながら、私は今、彼と向き合おうとしている。