彼といたとき、私は頬がちぎれんばかりに笑った。1分1秒でも早く彼に会って少しでも長く彼と一緒に居たかった。
彼の大きな手が身体に触れると身も心もほどけて高揚を抑えられなかった。
彼のまっすぐな瞳が私を見つめたその瞬間にいつも、これは夢?と錯覚する程幸せを感じた。でも、その幸せが段々と怖くなった。いつか終わるかもしれない恐怖が襲ってくるのだ。
私には彼はきっと釣り合わない。試し行動をとったメンヘラ期
彼といて、彼の人生を自分は邪魔をしてしまうのではないかと、彼との時間が楽しければ楽しい程辛くなる。彼にはご両親がいて、話をきく限りとても大切に愛されて育てられていたのを感じられた。
だが、私自身は父は幼い頃に自らの命を断ち、義父には「今日もまだ生きてるのか。」と邪険にされ、生きていることは罪だ。と言われているように感じながらも、家族が居なくならないように"平和"な家族ごっこを演じた。
それでも家族ごっこに終わりがきて、大切だと思っていた"家族"が壊れ自分自身も壊れかけ、祖母の家で暮らしていた過去のある私を、彼は受け入れられるであろうか。と彼の笑顔を見る度思い、彼が夢を語る度、私が側にいていいのだろうか。と悩んだ。
側にいることが失礼なのではと思った。
更にやりたいことを見つけそれに向かって進もうとする彼の前向きさに、私は劣等感とそんな自分に対して嫌気を持ち、そして彼に対して罪悪感が膨らんでいった。
会えば会うほど幸せで、会えば会うほどにしんどいのだ。
いっそ嫌いになれないなら嫌われよう。とあることないこと嘘か誠か分からないような誇張した話をして彼を怒らせたこともあった。そして、これで嫌われて振られれば私も彼も辛い想いをしなくて済むんだと言い聞かせて笑顔を作った。どんな事を言っても彼は嫌いになってはくれなかった。
いつも優しくまっすぐで、あたたかな陽だまりのような彼は変わらず私を見つめていた。だがその目の奥の表情は寂しげで胸はギュッと苦しくなった。
今すぐ、ごめんね。とこの胸に飛び込めるようなそんな正直さがあればこんなに苦しくないんだろうな。と思いながら彼の肩を冗談ぽく叩いた。
彼はまた寂しげに笑う。
お前がいいならそれでいいよ。と遠くを見るように笑った。その時思った。好きな人のこんな顔見たくないな。と。
こんな表情させる自分も大嫌い、彼の優しさに甘えて辛くあたる自分はもっと嫌だった。ぁあ、私、この人が私のこと本当に好きなのか試し行動してる。と悟った時もう別れる時だと感じた。
辛い別れから、学んだこと
このままでは彼は自分のやりたいことを追いかけず私が行かないで。と言えば側にいようとするし、私はそれを望むだろう。彼を本当に好きなら、もう自由にしなきゃ。と彼につけていた見えない首輪をそっと外した。そして何でもない会話のあと、別れようと告げた。彼はごめん。ごめん。と言った、私は気持ちは変わらないと電話を終えた。そして泣いた、泣きじゃくった、涙で溺れそうになる位泣いて辛くてしんどくて、今すぐ嘘だよ。と言いたい気持ちと携帯の連絡のボタンを押したくて、会いたくて寂しくて悲しくて、でもこれでいいんだよ。と言い聞かせながら携帯を抱きしめながら泣いた。そして私は別の人と結婚した。
こんな気持ちにならないような穏やかな人と結婚した。
あの時の彼との時間は本当に楽しくて、毎日が急に輝いて見えて、彼から何かの合間にくるたわいもないメールや電話に胸を躍らせ、待ち合わせ場所に彼がいれば嬉しくて走って駆け寄った。
今思い返せば私はまだまだ子供で、彼の全てに対して甘えていて、それなのに彼を受け入れず、何も始まっていない未来を否定し拒み怖かったと言い訳をし、彼との幸せの時間を手放さなくても良かったかも知れない方法を考えだしもせず、逃げた。ただそれだけだ。そんな全てから逃げる私を少しでも成長させたい。と思った時、彼が「やりたいことあるんやったら好きなようにやればええよ」と言って微笑んだあの瞬間が浮かんだ。私は彼が何気なく発したひと言になんだか勇気をもらえたような気がして、自分を奮起させ様々なことをやってみることにした。
過去の自分、大嫌いだった自分を好きになってくれた人に、恥ずかしくないように私なりに頑張って前を向いていこう。
本当は大好きでした。