「大人ってなんですか?」
代表との最終面接。質問はありますか?と聞かれて出した質問。
ずっと分からなかったこと。ずっと知りたかったこと。ずっと答えてもらえないと思っていたこと。
「うーん……。責任を持つことかな。自分の選択においての」
代表の答えを聞いたとき、私はこの会社への入社を決めた。

真面目に考えてくれると思っていなかったので、面食らった

就活には悩んでいなかった。求めていたのは企業の知名度や給料ではなかったから。ブレブレの軸のまま、合同説明会にとりあえず参加していた。
ふらふら歩いていたときにその会社はあった。横文字の社名。個別指導塾の文字。そしてチラシを配る笑顔のお姉さま。塾なんてブラック企業としか思えなかった。
でも大学が教育系だったから、とりあえず話だけ聞くことにした。

話だけ、のつもりが1次選考に進み、懇親会、のつもりが2次選考に進み、あれよあれよという間に最終選考まで進んでいった。もちろん他の会社の選考も進んでいた。
大学3年の3月。相変わらず軸はブレブレのままで。自分が20歳を過ぎていることが、自分が大人とみなされていることが受け入れられないままで。

このときの私は就活をだいぶナメていた。普通に働くことも受け入れられていなかった。いざというときはアルバイト先に就職しようと思っていた。
だから最終面接、代表との1対1の面接も緊張していなかった。
むしろ経営者に会える機会なんて2度とないんだから、聞きたいこと聞こう!くらいの気持ちだった。
そして質問。
「大人ってなんですか?って聞かれたらどう答えますか?」

笑われると思ってた。就活の面接で聞くことではないだろって。
そんなの分かってた。でも知りたかった。
どうして大人になったらみんな働き出すのか。つまらない、って言いながら毎日同じことを繰り返すのか。死んだような顔をして会社に行くのか。

代表は、うーん、と悩んだあと、「それは俺の子供に聞かれた場合?それとも生徒に聞かれた場合?」と、真面目な顔して聞いてきた。
「あ、えーっと……どちらでも」
誰に聞かれたかで答えが変わるのか??
正直そんなに真面目に考えられると思わなかったので面食らった。曖昧にぼかしてしまった。
「うーん……」。代表はまだ悩んでいる。

初めてもらえた答え。代表は私の生き方を見抜いていたのか

同じような質問は、たびたび大人にしていた。
どうして勉強するの? 大人と子供の違いって何?
帰ってくる返事はだいたい一緒。いつかわかるときがくるよー、だの、シャチさんなりの答えが出るといいねー、だの。
私はその人の考えを知りたかった。明確な答えなんてないのはわかってた。この人はこう考えているんだってことを知りたかっただけなのに。周りの大人たちは困った顔してぼかした。
まともに考えようとしてくれた人に初めて出会った。だから驚いた。

沈黙。代表はまだ悩んでいる。
「あの……」。変なこと聞いてすいません。いつもと同じ。謝って苦笑いして終わらせようとしたそのとき、代表が口を開いた。

「責任を取ることかな。自分の決断、過程、その結果、すべてにおいて責任を取ること。それが大人だと俺は思う」

決断に責任を取ること。初めてもらえた1つの答え。この会社に入社することは両親に反対されていた。いつも親の言うとおりに生きてきたから。今回もそうなのだろう、彼らがいいと言った会社に就職するのだろう。代表は私のそんな生き方を見抜いていたのだろうか。

「たとえば高校とか大学とか、親の言うところに行く子って一定数いるよね。自分の将来のことだけど、そこで失敗したとしても親のせいにできる。何かあったとしたら守ってもらえる。決断に責任がいらないんだよ」

決断することで、大人への一歩を踏み出せるかもしれないと思った

代表の言葉は続く。
私はうなずくことしかできない。これは私の話か、それとも代表の考えか。

「でも大人になると誰も守ってくれない。一旦決めたことは自分で最後までやり遂げないといけない。決断に重みがあるんだ。その重みが責任だと俺は思う。だから大人っていうのは決断に責任を持つことじゃないかな」

泣きそうだった。最終面接で代表を前にして。
ずっと自分は大人になれないと思ってた。子供の心のまま、社会に不平不満を言いながら、外側だけ大人の皮を被ったつまらない大人もどきになるのだと。
でも代表の言葉で、決断することで大人への一歩を踏み出せるかもしれない、言いなりだった自分の人生を変えられるかもしれない、と思えた。

「こんな答えでどうかな?」
代表はニヤッと不敵な笑みを浮かべていた。見透かされてたのかな。
「ありがとうございます。スッキリしました」
経営者はさすが、何かが違う。

1週間後、採用通知が届いた。私は迷わず入社を決めた。初めて自分で選んだ進路だった。
大きな緊張と少しくすぐったいような気持ち。この決断は一生忘れない、そう強く感じた。

あれから2年。
色々あって今はあの会社にいない。ただ、あのときの代表の言葉は今でも覚えている。
「大人とは決断に責任を持つこと」
転職も自分で決めた。一人暮らしも自分で決めた。こうして私は一歩ずつ大人になっていく。小さな決断を少しずつ積み重ねながら。