2022年4月30日、とある婦人科の診察室。
モニターには白黒のエコー図。真っ黒な画面の中に、無造作に半分に折った布団のような白い物体。
あぁ、本当に、私の中に子宮があるんだ。

衝撃の診断結果。婦人科を訪れたあの日を生涯忘れられない

時は遡り、2021年9月。
痛み止めの効かないほどの痛みの後、ぱたりと止まってしまった生理について相談するため、私は同じ婦人科を訪れていた。
そこで待っていたのは、想像もつかなかった「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)かもしれない」という衝撃の診断結果。ついでに月経困難症も疑われるので、ピルを飲んで様子を見ましょう、となったあの日のことは、生涯忘れることはできまい(診断を受けたときのエッセイはこちら)。

それから8ヶ月。処方されたピルが合ったのか、ひどくなる一方だった月経前症候群(PMS)もかなり落ち着き、生理は私にとって恐ろしいものではなくなった。職も変え、心と身体が少しずつ、でも着実に、バランスを取り戻したのを感じる。
そうなると、気になるのが「多嚢胞性卵巣症候群かもしれない」という、実に中途半端なあの診断だ。

自分の身体をちゃんと知りたい。そんな想いに突き動かされた

実は、多嚢胞性卵巣症候群は、「月経異常」「血中ホルモンの異常」、そして「超音波断層法検査で両側卵巣に多数の小卵胞が見えること」の3点が揃ってはじめて、確実な診断がなされるらしい。

夏の終わりのあの日、私は3つ目の「超音波断層法検査」を受けられなかった。
でも、今なら大丈夫なんじゃないか。やっぱり、自分の身体のことをちゃんと知りたい。
そんな想いに突き動かされて、いつもの「ピル処方」ではなく「婦人科診察」枠で予約を取った。

いつもの診察室から、入ったことのない部屋に通される。
真ん中には、優しいピンク色の、座面がふたつに割れた椅子が置いてある。
藤色のカーテンの向こうから、下着を脱いでスカートを捲り上げて座るように指示され、おそるおそる腰を下ろす。
ウィーンという音とともに、椅子が持ち上がり、背もたれごと90度椅子が倒れる。
正に、まな板の上の鯉。この状態で地震とかきたらどうしようと、場違いな考えが頭をよぎる。
骨盤の力を抜くよう先生の優しい声で言われ、慌てて何度も深呼吸をする。

「絶対にうまくやる」と笑いながら豪語した先生の腕は確かだった。
異物感はあったものの、噂に聞いていたような痛みは全くなく、私は奇妙な達成感とともに診察室に戻った。
向けられたモニターに、白黒のエコー図が3枚映っている。なんだかよくわからないけれど、多分、左上が左の卵巣、左下が右の卵巣。そして、画面の右半分には、下腹部全体の断面図が映し出されていた。
その中でひときわ目を引く、2つに折りたたまれた布団のような物体。
間違いない、昔、保健の教科書で見たことがある。これが、私の子宮なんだ。
あぁ、私にも、子供を産むための器官があるんだ。
なんだか涙が出そうになった。

私の子宮が私のなかで、心地よくリズムを刻めるように

意を決して検査を受けたものの、8ヶ月の間、ピルで排卵を止めていた私の卵巣には「多数の小卵胞」は見られなかった。
もしかしたら、治っちゃったかもしれないわね、なんて冗談交じりに笑う。最初の診断から環境が変わり、ストレスも減ったことから、一度ピルの服用を止め、自力で生理を起こせるかどうか、様子を見てみることになった。

帰りの車の中、あの、真っ白な子宮を思う。
多能性卵胞症候群かもと言われたあの日、女であることを全否定された気がした。「女じゃなければよかったのに」と泣いた日もあった。今日の診断も結局、悪い方向ではなかったけれど、本当のところははっきりとわからなかった。
それでも、私の中にも、保健の教科書とそっくり同じ、しっかりとした子宮があるんだ。
くすぐったくて、なんだか誇らしくて、大声で叫びたいような気持ちになる。
できるだけ身体を冷やさないようにしよう。夜は早く寝て、朝ちゃんと起きて、ちょっと運動なんかしてみたい。
私の子宮が、私のなかで心地よくリズムを刻めるように。だってあの子、あんなに堂々と、私の中に鎮座しちゃっているんだから。

くすくすと笑いながら、アクセルを踏み込む。
新緑の青い匂いが、車内へと流れ込んだ。