YESかNOか。どうしようか。スマホとにらめっこして数十分が経つ。
私は今、休部中の部活の追いコンに誘われている。その追いコンには、自分をいじめてた先輩や同期がいる。
普通なら行かない一択だ。しかし、何だか行かないと後悔しそうである。
別のLINE通知が来た。OGさんたちだ。彼女たちから、今私が抱えている悩みを察したかのように「ちゃんと見張っているから安心して来て欲しい」とLINEが来ていた。私は勇気を振り絞り、追いコンに出席する旨を連絡した。

飲み会の浮気はあるある。彼氏の浮気防止で参加した追いコン

私が追いコンに参加する目的は、「彼氏の浮気防止」である。
敵は2人。1人目は同期A。合宿中に、彼に膝枕をしてもらっていた。しかし、彼女は、私と彼が付き合っていることを知っていた。
私はこの件について問い詰めたが、彼女に「はい、この話は終わり」「器が小さいね」と一蹴された。ちなみに、この件について彼は「酔っていて覚えてない」と言い張っていた。

2人目は同期B。私に隠れて彼とサシ飲みをしていた。そして、彼女は度々私の悪口を彼に吹き込んでいた。彼女は、いじめ主犯の先輩に大層気に入られているため、女王様扱いをされている。そして問題の彼は、自分がいじめのターゲットにされないように、部活中は私を避けていた。
飲み会中の浮気はあるあるだと聞く。2人の魔の手から彼をカバーできるか。私のミッションが始まった。

懸念事項だった飲み会は、OGの方々の協力で何とか怪しい動きは防げた。私は飲み会後にOGの方々に感謝した。とはいえやはり楽しくなかった。彼は楽しそうにAやBと話していた。対して、私は彼から冷たくあしらわれた。いじめ主犯の前で私と仲良くしても得がないということか。

悲しくなってカラオケを抜け出し、近くの公園でぼーっとしていると

肩身の狭い飲み会だった。OGの方々はお仕事があるからということで、早めに帰宅した。私はここで解放されて安心したかった。地獄が終わって欲しかった。
私は飲み会の後にカラオケがあることを聞かされた。聞いていなかった。
でも、負けちゃダメだ。負けちゃダメだ。何度も自分に言い聞かせた。眠ってしまわないように、ドラッグストアに立ち寄ってエナジードリンクを買った。

カラオケに到着した。彼がAやBの頭を撫でて親しそうに話していた。私が彼に話しかけたら、こっち来るなと言われたのに。エナジードリンクで頭が冴えている分、悲しみが大きかった。私はこっそりカラオケを抜け出し、近くの公園でぼーっとしていた。

時間は24時を回っていた。冷たい風が寄り添ってくれていた。ずっと俯いたままで過ごしていた。
足元に目をやると、ゆっくり1人の人影が近づいてきた。顔を上げたら、柔らかい雰囲気のおじさんがいた。
私はおじさんに、今までの出来事を一気に吐き出した。おじさんはひたすら共感してくれた。私の苦しみはどうやら一蹴できない位のしんどい苦しみらしい。おじさんは、この夜で困ったことがあったら、今度はファミレスで話を聞くよと連絡先を渡してくれた。

終電を過ぎた時間。声をかけてきた二人に彼の浮気の話をした

私は溢れていた涙を拭いた。でも帰る気になれなかった。終電はとっくに無くなってた。荷物もカラオケボックスに置いてある。
途方に暮れていたら、今度は2人の男性に話しかけられた。2人はとても派手な容姿の男性だった。1人目は明るい長髪で、ピアスがガッツリあいた長身の男性。2人目はマッチョで髭面のイカつい刺青がびっしり入った男性。少なくとも私の部活には居ないタイプだ。

「大丈夫?どうしたの?」
私は今までのことを吐き出した。2人は「良かったら一緒に飲んで気分転換しようよ」と声をかけた。3人で飲み屋街をふらふら歩く。
私は一体どうなるのだろう。彼の方がきっとひどいことしてるから、私が2人と飲んでも別にいいよね、なんて考えていた。

2人が浮気相手の写真を見せて欲しいって話していたので、つい私は見せてしまった。2人はうわ、と声をあげて「容姿も体型もたぬきちゃんの方がずっと可愛いレベル高い」と話した。リップサービスかもしれなかったが、かつてAとBに体型マウントをとられ続け歪み切っていた私はスカッとした。
2人は、飲んだ後で追いコンに乱入して彼氏と浮気相手2人をぶっ潰そうと私に話していた。私はちょっと面白そうだと感じた。
急に私の手元が震えた。彼氏からの着信だ。私は急に我に返った。私は2人に、部員に呼び戻されているからごめんなさいと謝り、ダッシュで向かった。2人は、頑張れよと手を振ってくれた。

不思議な出会いのおかげで強くなれた。彼らはきっと夜の妖精

私は彼に、夜中の飲み屋街をフラフラしてはいけないと叱られた。正論だが理不尽だと思った。
しかし、幸い私は彼と同じ部屋で一緒に過ごすことになった。いつの間にか時計は夜中の3時をまわっていた。
私は始発の電車で帰る支度をした。帰り際、彼が私を追いかけ、一緒に帰って朝ごはんを食べたいと話した。私は彼の手を握って、お世話になりましたと笑って部員に別れを告げた。そして、この出来事以来、浮気相手たちの近況は知らない。私は彼と平穏な日々を過ごしている。

地獄になるはずだった夜は、とある不思議な出会いのおかげで私を強くした夜になった。きっと彼らは困っている人のもとに現れる夜の妖精だ。今日もどこかで誰かの幸せを作っているのだろう。そして勇気をだして助けを呼びよせた自分を褒めてやりたい。