朝なんか来なければいい。このままずっと真夜中でいい。そうすれば彼と離れることはないのに。

彼には本命の彼女がいる。そして私にも彼氏がいる。しかし私たちはこうして、池袋のホテルで抱き合っている。これを世間ではW浮気とでもいうのだろうか。
もちろんいけないことだとは分かっている。だけど私たちはもう離れることができなくなってしまった。

本気にならないことが暗黙のルールの関係は、一方的に終わった

事の発端は3年前に遡る。

私たちはその頃学生同士で、お互いパートナーもおらず、酒の勢いでセフレ関係になった。どちらかが気まぐれに呼び出して朝までホテルやカラオケなどで過ごす、とても自堕落な日々を送っていた。

約半年ほど経った頃、彼に「もう終わりだ」と言われた。理由は私が彼を本気で好きになってしまったから。私たちの関係は、『本気にならないこと』が暗黙のルールだった。
それから半年後、私は彼氏ができ、彼にも彼女ができたと友人に聞いた。私はもちろん彼氏のことが好きで大切に思っていた。彼とはあの日以降連絡は取らずに、そのまま彼氏と順調に交際を続けていた。

ただ、私の気持ちも伝えられないまま、一方的に終わりにされた彼との関係が、たまに蘇ってしまう。
彼と一緒に見た映画の続編が公開される。
あのバンドのアルバムが発売された。
そして私は彼が好きだったあの煙草をやめられない。
こうして空想の彼は私を2年間も縛り付けていた。いっその事、もう一度会ってきちんと話して終わらせたほうが良いのではないか、そう思っていた。

その数日後、2年ぶりに彼から唐突に連絡が来た。
「今日の夜、何してんの。飲み行かない?」
私はとても迷った。行くべきではない、しかしこのままでも良くない。だが彼からの連絡に浮き足立っている自分も確かにいたのだ。

私は仕事が終わり、彼に指定された居酒屋へ向かった。

ついて行ってはいけないと分かっていても、気持ちを止められない

2年ぶりの彼は相変わらずかっこよく、少し大人っぽくなっていた。
「おまえ、可愛くなったな」
今まで一度も褒めてくれなかった彼が、初めて褒めてくれた。嬉しかった。それから私たちはお互いの近況報告をし、共通の趣味の読書の話をし、ふらふらになるまでお酒を呑んだ。
「もう終電の時間だ」
私が帰ろうとすると、彼は「まだ、一緒にいよう」と手を握ってきた。
何かあったのだろうか。今までは彼から褒めてくれたり、帰るのを拒んだりすることはなかったのに。
私には彼氏がいる。そして彼にも。悩んだが結局、私は彼について行ってしまった。
頭ではいけないことと分かっていながらも、どうしようもなかった。私のこの気持ちを止める術がなかったのだ。そして本能のままに彼に抱かれた。
私たちはまた昔のようにどちらかが呼び出し、一緒にお酒を飲み、朝まで過ごす生活を始めてしまった。

申し訳なさは募るけど、彼からより離れられなくなった夜

ある日、私は彼に過去の私の思いを伝えた。
彼も私のことが好きだった。しかし、セフレから始まった関係は覆すことができない、と彼は思い、私から離れたそうだ。
何故今になってそんなことを言うのだ。彼氏には本当に申し訳ないことをしていると思っている。罪悪感も痛いほど感じている。なのに私は彼から離れることが、より一層できなくなってしまった。彼を本気で愛してしまっていたから。

それなら彼氏と別れればいい、そんなことも分かっている。でもそれができないのだ。本当に身勝手な女だと我ながら思う。 
タイミングがもう少しずれていれば、私たちは普通の恋人同士になれていたのかな。ああ、このまま朝が来なければいいのに。現実なんか見たくない。
これが逃げでしかないことも分かっていながら、私たちはどうする事もできず、また過ちを繰り返す。