ドラマや漫画で描かれる恋愛において、男性の方が女性より背が高いパターンは、よくあるステレオタイプだと思う。
男性の胸の中にすっぽりおさまる、上目遣いのうるんだ瞳で見つめる、高い所に手が届かずに助けてもらう、お疲れさまと頭をポンポンされる……そんなふうに表現された恋愛を、これまで散々見てきた。20代男女の平均身長を考えても、男性は171.5cm、女性は157.5cmなのだから(厚生労働省の2019年の「国民健康・栄養調査報告」による)、これらの設定にも特に無理があるわけではない。

恋愛ドラマ定番の身長設定は、170cmの私には難題

ただ、身長170cmの私にとっては難題だった。
これまで散々「男性の方が女性より背が高い」設定の恋愛ドラマや漫画を見てきた私にとって、自分より背の高い男性と付き合うことが自然で、次第に「ゆずれない条件」として、しばらくの間、心のど真ん中に鎮座していた。

成長痛に苦しめられながら身長が伸び、中学校に入学した時点ですでに167cm。その身長を活かして、テニスかバレーボールかバスケットボールか、どの部活に入るか迷った結果、バスケットボール部に入部。ゴールに一番近いセンターポジションで、味方の外したシュートボールを拾ったり体を張って場所をつくったりと、その身長のおかげで出番を貰えることが多かった。
今思い返すとやりすぎなほど筋トレに励み、長時間の練習や試合に耐えた結果、あまり身長は伸びずに中学3年生の時に170cmでピタッと止まった。

小学生の時は自分より身長の高い男の子にしか恋をしなかったし、中学生の時に自分のことを好きらしいと風の噂で聞いた彼には「自分より身長が低いから」という理由で冷たくあしらった。高校生の時は部活動と勉強漬けの毎日で恋愛どころではなかったが、身長差のある友人のカップルを見ては羨ましく感じていた。

身長で選んでデートをしても、ピンとくる相手はいなかった

大学生になってからは女子大で出会いがなかったこともあり、恋活のアプリを利用するようになった。
数多いる男性の中から年齢や学歴、住んでいる場所などで条件を絞り込み、自分と相性の良さそうな人をせっせと探す。その時に当然、身長も選ぶことが出来る。アプリを使い始めた当初は175cm以上、そのうち170cm以上と条件を変えていったが、結局「自分の身長と同じかそれ以上」という点では揺るがなかった。
そうしてアプリの中から条件に合った男性を選び、勉強や仕事の合間にこまめにメッセージを送る。「食べるのが好きならご飯行きませんか」とか「建築のお仕事なら、今度建築展見に行きませんか」などとデートを重ねても、ピンとくる相手はおらず、本格的にお付き合いに至ることはなかった。

現在、友達の紹介で出会って付き合い始めた彼は、私より身長が少し低い。立って横に並ぶと、猫背なのも相まって私のほうが少し高く見える程度で、座っている状態であればさほど身長差が気になることもない。
出会ってから2年、遠距離恋愛で付き合い続けてもうすぐ1年半になる。

「三高」が持てはやされたのは遥か昔。重要なのは価値観

カップルが付き合う上で、身長差があることはそれほど重要なことではない。私が思うにそんなことより重要なのは、価値観が合うかどうか。
私たちはお互いに暴力的なことは嫌いで、出来る限り穏やかに楽しくいたいと思っているし、辛いこと嫌なことは適度に吐き出して伝え合って支えあって成長している。美味しいごはんを食べるためなら、時間をかけて調理したり材料を手に入れることを厭わないし、お風呂に長い時間つかることに幸せを感じるのも一緒。
身長や体型などの目に見えることよりも、学歴や収入なんて検索で絞り込めることよりも、ずっと大事なこと。同じ趣味がなくてもいいし、近くに住んでいなきゃ続かないということもない。

長い間心のど真ん中に鎮座していた「高身長の男性と付き合う」という条件。これを蹴とばしたのは彼の全力の好き!!!という熱い想いに他ならない。
結婚したい男性のスペックとして“三高”が持てはやされたのは遥か昔。高学歴、高収入、高身長の男性と出会うことが幸せな時代もあったのかもしれない。
価値観の合う人と出会うことは容易ではないけれど、そうして皆が「アクセサリー」ではなく「長く時間を共にするパートナー」として最適な相手に出会えることを願って、この駄文を閉じようと思う。