優等生だった18歳の私。ピアスも化粧も「自分とは違う世界」
「大人はピアスを塞ぐもんだよ。そうじゃないとイタイ人だよ」
そう18歳の私に言ってきたのは誰だっただろうか。
28歳になった私の耳には、今でも5つのシルバーピアスが鈍く輝いている。
自信を持って言えるが、18歳の頃の私は「優等生」だった。成績はトップで生徒会所属、課題も部活も難なくこなし、よく働く。運動は苦手。
授業はたまにサボるけど健全で真面目で地味な女の子。
だが自然とそうなった訳ではない。昔はめちゃくちゃにやんちゃだったはずだ。
ある時から親に「そうあれ」と抑圧され、周りに言われる通りの「そういう自分」を保つことに必死になった。
大学に行ったあともできた彼氏が「そうあれ」と言うので「そういう自分」を保つのは辞めようとも思えなかった。
だから染髪も、ピアスも、化粧すらもあまりしなかった。「優等生」だから。
「自分とは違う世界」だから。
その抑圧に従うことが、昔の私にとっての武装だった。
チャラすぎて怖い印象と裏腹に、物腰が柔らかく魅力的な先輩
そんな私が大人になってからピアスを開けようと思ったのは、社会人になって一緒の部署に配属された先輩の影響が大きい。
先輩はおおよそ一般的な社会人には相応しくない見た目をしていた。
金髪にぐりぐりのパーマ、ダボダボの服、黒いバングル、無精髭、そしてCalvin Kleinのシンプルなピアスを付けていた。
第一印象は「チャラすぎて怖い……」。
だが第一印象とは裏腹に、先輩は非常に魅力的な人だった。
見た目からは想像がつかないほどの物腰の柔らかさ、頭の回転の速さ。
軽い性格ゆえの人あたりの良さ、柔軟性、多くの人と接してきたであろうことが伺える対人スキル……。
「見た目とギャップあるでしょ?それが狙いだよ」とニコニコ笑う先輩の姿は、「こうなりたい」と素直に思える姿だった。
私は飄々と世界を楽しむ先輩に影響され、「自分とは違う世界」と勝手に線を引いていたものに手を伸ばすようになり、世界を広げていった。
そしてそのたどり着いた先にあったのが、ピアスである。
ピアスという身体改造を実行。30分で世界が大きく変わった
「ピアス」つまり身体改造。
化粧や染髪と違い、元に戻したり、時間が経てばどうにかなるようなものでもない。
「今更ピアスなんて痛い大人」
「ピアスしてる女とか無理」
「イキるな」
「調子に乗るな」
「周りからどう見られるかわかってるの」
「親に貰った体を大切にしろ」
私の中に渦巻く「優等生」の呪いは想像以上に凄まじくて、頭の中は呪いの怨嗟と反抗でぐちゃぐちゃになった。
その怨嗟に苛まれ、迷いがあるならキャンセルしよう、と何度も思った。
しかしその度に「ここでやらねば一生このままだ!」と思い留まり、何とか施術の日を迎えることが出来た。
施術自体は30分もかかってないと思う。
だが、その30分で私の世界は大きく変わった。
めちゃくちゃ爽快な気分だった。
耳に鈍く輝くピアスは本当に可愛い。特に軟骨なんて最高にアガるし、鏡の前で機嫌が取れてしまう。
高揚した私はすぐさま予約を追加し、ピアスを更に2つ増やすことにした。
呪いの正体は、テキトーな世の中で作られた、簡単に変化するレッテル
また、ピアスをつける前は思いもよらないことだが、外を歩いていても見知らぬ人から失礼な態度を取られることが無くなった。
人にぶつかられない、変に声を掛けられない、街中で罵倒されない、押しのけられない、ちょっとした嫌がらせを受けない……挙げるとキリがない。
確かに人が私を見る目は変わったが、その分非常に快適な生活を送ることができるようになった。
中身は変わってないのに、ピアスが付いてて怖いから手を出してこないんだ、と気づいた時、世の中のなんとテキトーなことか!と衝撃を受けた。
私が苦しめられた呪いの正体は、人からの抑圧か、自分の思い込みか。きっと両方だ。
でもそれは、自分含むテキトーな世の中で形作られた、些細なことで変化するレッテルのひとつにすぎない。
あらゆる呪いの正体に気づけたとき、私は逆に呪いを味方につけて、本当に私の尺度だけで生きていけるようになったのだった。
「優等生」と呼ばれる全員が、私のように呪いに支配されている人間という訳ではないと思う。
きっと「優等生」だけど、そういう呪いや思い込みをするりとかわせる人もいるのだろう。
でも私はそれが出来なかった。
それが出来ずに、24年間「自分」を保つためだけに生きてきたのだ。
それを変えてくれたのは、間違いなくピアスだった。