半期に一度のボーナスが入った翌日、初めてレズ風俗を予約した。
私は恋愛感情が人より薄い。他人と性的な接触をしたいという欲求も薄いほうだと思う。
性的志向も定まっていないし、そもそも定めたいとも思わない。
ただ、過去に一度だけ女の子に抱かれたことがあって、そのときの何とも言えない感覚が忘れられなかった。あの感覚は何だったんだろう、とずっと考えていた。
同性と付き合うことも考えたけど、私はただ女の子の肌に触れて何かを確かめたいだけで、恋愛がしたいわけじゃない。
そう考えると、お金で割り切った関係を持つのが一番手っ取り早いように思えた。

◎          ◎

申し込んだのは1時間半のコース。指名をした相手と駅の近くで待ち合わせて、手を繋いでホテルに入り、シャワーを浴びてから二人でお風呂につかった。ほんの20分ほど前に出会ったばかりの相手と裸でくっついていることが不思議で仕方なかったけど、そのころには緊張もいくらか解けていた。
このあと私は、この人に抱かれるんだなぁ、と思いながら、初対面の相手と雑談をするのは、非日常的で楽しかった。
人に対して恋愛感情を抱くことがほとんどないということも、初めて抱かれた女の子のことも話した。何も話せないようでいて、何でも話せるような気分だった。

お風呂から出てガウンを着て、ベッドに並んで座った。そこからはさすがプロ、と言いたくなるような手際のよさで、行為はスムーズに進められた。安くない金額を払っていることとか、二人の間に何の感情もないこととか、そういうことはほとんど考えずに済んだし、十分すぎるほど満足感も得られた。
でも、確かめたかった感覚の正体は結局よくわからなかった。人と肌を重ねなければ得られない何かとか、我を失うほどの陶酔感とか、夢ごこちとか、そういうものも特になかった。
あったのは現実だけだ。セックスは幻想じゃない。性欲も身体感覚も、どこまでも現実だと思った。

◎          ◎

残りの時間は特に何もせず、ベッドの上でごろごろしながら過ごした。裸のまま抱き締められたり、抱き締めたりした。私が彼女の髪を撫でていると、彼女はひとりごとみたいに呟いた。
「○○さんのことを好きな人は、たくさんいるんだろうな」
私は「そうかな」と言って曖昧に笑っただけだった。
「どうしてそう思うの?」と尋ねたら、彼女は何と答えただろう。ただのリップサービスに突っ込まれて、答え方に困ったかもしれない。1時間半で感じた印象について話してくれたかもしれない。特に理由はなくそう言ってみたくなっただけかもしれない。

彼女の顔はもう、ぼんやりとしか思い出せない。愛おしいとも思わない。でも、あのときの彼女の言葉を思い出したくなる日がある。
ホテルの部屋のオレンジっぽい明かりとか、シーツのぱさぱさした感触とか、ちょっとぬるかったお風呂の温度とかを、わざわざ思い返したいときもある。
結局、私が確かめたかったのは行為そのもので得られる感覚じゃなくて、その周りにある何かだったのかもしれない。その何かが掴めるまで、あの日のことは忘れないでおこうと思う。